プロフィール

株式会社第一不動産 代表取締役社長
中島 敦氏

昭和39年静岡市生まれ。大手リース会社支店長として勤務したのち、2002年に父が代表を務める第一不動産グループに入社。2005年、株式会社第一不動産 取締役就任。2010年、父の急逝により株式会社第一不動産の代表取締役に就任。
著書に『0円リクルーティング』(幻冬舎)、『問題社員を一掃する 劇的! 組織改革』(幻冬舎)などがある。

第一不動産 静岡田町店店長兼テナント事業部
深山 陸氏

2017年同社入社。静岡北店店長を経て、2021年静岡田町店店長に就任。現在、事業用不動産(店舗物件)営業を兼務する。

プリンシプル住まい総研 所長
上野 典行氏

慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、株式会社リクルート入社。求人広告の営業・制作を経験の後、リクルートナビを開発。2002年より、住宅情報タウンズのフリーペーパー化を実現し、編集長に。その後、住宅情報マンションズ初代編集長。現スーモも含めた商品・事業開発責任者に従事。2008年より賃貸営業部長となり 2011年12月同社を退職。プリンシプル・コンサルティング・グループにて、2012年1月より現職。全国で、講演・執筆・企業コンサルティングを行っている。


コロナ禍で好況のロードサイド物件、本業にも好影響

上野:早速ですが、最近の店舗物件の市況はいかがですか?

中島:いやぁ、コロナで厳しいと思ったんですが、近年まれにみる好況ですよ!

上野:それはなによりです。好調なのは、静岡駅周辺のいわゆる街中の物件ですか?

中島:いやいや。正反対のロードサイド。街中のテナントの反響よりも、静岡では、郊外のロードサイド物件の打診が多い事がわかったんです。そこで、今年の5月ころからロードサイドのオーナーさんに、「このあたりにテナントの出店があるとしたら、土地の有効活用としてどうですか?」と矛先を変えたんですよ。

上野:えっ!どういうことですか?

深山:ロードサイド物件のオーナーさんって、意外にもマンションやアパートを所有しているケースが多いんです。その繋がりで居住用物件の管理を任せてくれたり、人脈が広がったりするケースが増えているんですよ。

上野:今まで付き合いのなかったオーナーと人脈ができて、住宅の管理受託に繋がっている、と。でも、これまでロードサイド物件はさほど管理はされてなかったのですよね?

中島:ええ。コロナ以降、それまで得意としていた静岡駅前の繁華街の店舗が全く動かなくなってしまって。そんな時にインフォニスタさんから「今は繁華街より郊外のロードサイドの方が出店意欲が高いようですよ!」と聞いて、営業戦略を切り替えたんです。

インフォニスタ担当者:今年の年明け頃でしたよね。店舗物件の動向として、「郊外のロードサイドに関心が高い」というマーケット情報を共有させていただいて。やはり、我々は普段から店舗開発担当者の生の声を聞いているので、こういう提案ができたのかなと思っています。

中島:今まで僕らが得意としていた街中の好立地物件を出しても反響が少ないのに、これまで手付かずだった、郊外の広い駐車場があるようなロードサイド物件を出すと面白いように反響が来るから、完全に戦略を変えたんですよ。

上野:コロナ禍で店舗開発のニーズがロードサイドやドライブスルー、ファミリー狙いにシフトチェンジしたんでしょうね。

中島:うちではなかなか法人の店舗開発担当者と付き合いがないから、そういうトレンドが分からないんですよ。だから、インフォニスタさんから助言を頂いて助かりましたね。街中の店舗物件中心でやっている不動産業者の中には廃業に追い込まれたところもありますから。

上野:今は街中だけに固執しているとなかなか厳しいですね。

中島:2年近く決まっていない空き物件とかもあって厳しいですよ、商売が成り立ちません。

上野:今回のようにロードサイドにマーケットが移っても、マーケットデータがないと分からなくて、全部コロナのせいにしてしまいがちですよね。

中島:そうですね。うちでは、毎週、戦略会議を開いてインフォニスタに掲載した物件の反響データをとことん分析していますからね。

コロナ禍でロードサイド物件にニーズが集中

上野:で、今年は予想以上にテナントが動いている、と。

中島:いやぁ、本当に珍しい。今年はダメかなと思ったのに、この数ヶ月は特にテナント反響が増えてきているんですよ。

上野:本来なら空かないような物件がコロナで空室になっていますからね。

中島:それは間違いない。今を逃したらもう空かない、と分かっているから、緊急事態宣言が終わるまで無駄な家賃払ってもいいという感覚で抑えにいっているテナントは多いですよ。
だから社員にも、繁盛している物件オーナーを狙って営業に行かせています。「今後もしも空室になったらうちに仲介させてください!」って。ただ、今は静岡駅周辺の引き合いがなくて、ロードサイドばかりですね。

上野:静岡でロードサイドって言うと、どの辺りを指すんですか?

深山:メインはSBS通りですね。

上野:そうなんですか?!昔はそんなに店舗が多いエリアじゃなかったですよね。

深山:はい。でも今は、回転寿司やディスカウントストアなど大型店が並ぶ一大エリアになっていますね。

中島:土地も店も広いから、車移動がさらに増えたコロナ禍にはピッタリなんだろうな。

上野:あぁ、確かに。東京だと出掛けるにしても満員電車だなんだってリスクがあるけど、地方は車社会だから割と気軽に出かけられますよね。郊外のロードサイド店で飲食するだけでも、お出かけした感が味わえるし。

中島:まさに、そういう市場の変化に上手く乗れたのが良かったんですね。

上野:でも、御社のように賃貸住宅がメインで、ロードサイド物件を扱える会社は珍しい。最初、オーナーさんの反応はどうでした?

深山:「今まで来たことなかったのに、なんで第一不動産がうちに?」ってびっくりされましたね。
でも手前味噌ですが、静岡で長年やっていますから、話は聞いてくれますし門前払いされるってことはなかったです。その日は断られたとしても話は聞いてくれますから、また次も行けるなって思えます。

中島:テナントは数年に一度の契約だからね。毎年、契約が起きる訳じゃないので、人脈を繋げて人間関係を構築するのが大事だと思いますよ。

上野:でも、実際やってみると、ロードサイドも良い賃料で借りているな、と思いません?しかも15年くらい長期で安定して借りてくれる。

中島:そうね。物件が大きいから総額が大きいですしね。

上野:深山さん、どうです?実際にロードサイドをやってみて感想は。

深山:最初はロードサイドにどんな業種があるのか、オーナーはどんな人か、何も知らない状態からのスタートでした。でも、だんだんと分かってきて。静岡の場合、ロードサイドの店舗物件には管理会社が付いていないことが多いんですよね。

中島:そうそう!今になって初めて気づいたんですよ。今まで営業対象として見てもいなかったけれど、実は商売できるゾーンだな、と。

上野:今日も駅前歩いてきましたけど繁華街は空室多いですねぇ。東京も同じ。都心の特にオフィス街のコンビニなんて、テレワークで人がいないから困っていますよ。

中島:ビルインのコンビニはきついでしょうね。地方は独立店舗が多いから、外出自粛の影響をそこまで受けない気がしますね。

インフォニスタ担当者:おっしゃる通りで、昔だったらすぐ埋まっていたようなオフィス街の角地の好立地物件なんて、今じゃ提案してもお断りされる事も多いですからね。これがコロナ禍での特徴なのだと思うんですけど店舗開発の皆さんから「街中じゃなくて郊外の物件を下さい!」って言われる機会も増えています。

中島:街がどう変わるか、僕らは決められないけど、変わりようになんとか付いて行くことはできますからね。

上野:いやぁ、自分が変わることが一番難しいですよ。特に不動産業界は「RPAなんて知らない」とか「郊外のロードサイドはちょっと…」とか、言い訳する方、少なくありませんよ。残念ながら…。

ネット集客が功を奏した住宅賃貸営業 RPAにも注力

上野:本業の住宅の方は市況いかがですか? 

中島:特に7月はすごく良かったですよ。

上野:お!それは何か秘策が?

中島:やっぱりネット集客ですね。数か月前からコロナ禍を見越して、ネット集客に注力したのが大成功でした。
部屋の写真の点数を増やしたり、動画をアップしたり、反響の良い物件をピックアップして入れ替えしたり。写真の撮り方も工夫しましたね。本当に細かい、およそ不動産とは関係ないようことを徹底してやりこんで。ほぼ全部RPAで動かしたんですよ。

上野:えっ、本当ですか?!

中島:とにかく物件の写真を一気に撮って、その画像をすぐ取り込んでネットにアップできるシステムを構築したんです。写真撮影は、うちに入社面接に来た学生にアルバイトとしてお願いしています。

上野:アルバイトとはいえ、そこで仕事ぶりを見る?

中島:そう。それで能力の高い学生がいたら、もう社員扱いで飲み会に誘う。そうすると「こんなに楽しい会社、良いな!」って思ってくれるでしょ?

上野:いいですね、そういう社風。人が採れなくて悩んでいる会社も多いけど、そういうマインドに持っていくのも大事ですよね。

中島:気持ちがマイナスなのに「頑張れ!」と言ったって効果はないけど、うちの会社に対する気持ちがポジティブなので、どんどん頑張ってくれますよ。

上野:本来、賃貸アパートの写真撮影なんてワクワクして撮らないとつまらない写真になっちゃいますもんね。

中島:そうなんですよ。でも、彼らは社風を気に入ってくれて、もう半年以上アルバイトを続けているので、仕事も早くなってくるじゃないですか。そうやって物件情報をどんどんネットに載せています。
空室情報を取得するのも、人力でやったら何時間もかかる所を4年前からはRPAでいっきに収集して掲載する仕組みにしているんですよ。

上野:そんな中、8月に入ってから全国的に景気が冷え込んで…。

中島:そうですね。緊急事態宣言が全国的に出てしまったので、やむを得ないとは思っていますが。

上野:ただ、これから秋冬にかけて転勤需要が動くんじゃないかな?

中島:期待したいですね。その為に、虎視眈々とネット掲載に力を入れているんで。1データごとの反響率とか遷移率など、全部データを分析して、データシステム戦略にも力を入れているところです。

募集から契約までデジタル化、少数精鋭でもコンスタントな契約が可能に

上野:ほとんどの会社は月極駐車場やオフィス仲介を嫌がるんですよね。

中島:そうですか?当社では、ほぼ営業マンが関わることなく月20件は駐車場契約していますよ。

上野:えっ!どんな仕組みが?

中島:市内8,000件の月極駐車場に、オーナーさんの許可を得て第一不動産の名前でQRコード付きの募集看板を出すんですよ。

上野:QRコードにアクセスすると第一不動産に問い合わせが来るわけですね。

中島:そのタイミングでうちがオーナーさんに交渉する。空いているから駐車場借りられます、じゃなくて、空いているかどうか確認とれますって仕組みができる。

上野:面白い仕組みですね!

深山:はい。それで空きがあれば、そのままオンラインで契約できるので、お客様はわざわざ店舗に足を運ぶ必要がないんですよ。

上野:すごいですよね。

中島:今、これの進化系で賃貸版を作っているんですよ。うちは重要事項説明すべてオンラインなので、これまでに重説した物件からどんどん賃貸物件にQRを貼って、募集から内見、契約まで全部オンライン化を目標にしています。

(写真左)物件や駐車場に掲示している募集看板。QRコードを読み込んですぐに問い合わせができる。
(写真右)募集看板のQRコードを読み取った際の表示画面※開発中

上野:素晴らしい!

中島:実現すれば、営業マンが動かなくても契約締結までいける仕組みができあがる。
駐車場なんて件数が多いから人力じゃとてもできないけど、この仕組みにしてからは、案件発掘から契約までパートスタッフだけで回せるようになりましたからね。

上野:中島社長がうまいのは、戦略と雇用とシステム。この3つがセットになって戦略的に動いていること。

中島:ありがとうございます。いかに労力を減らして売上を維持するか、常に考えています。

上野:いいですね。ここまでデジタル化が進んでいるのは素晴らしい。

中島:この業界は新しいものを取り込むのが苦手な人が多い。社長に意欲があっても、現場は嫌がるケースが多いですね。

今回、取材に応じていただいた企業様

株式会社第一不動産

株式会社第一不動産

設立
1983年10月
本社所在地
静岡県静岡市葵区田町5丁目10番地の1
事業内容
不動産売買・賃貸の媒介、不動産管理業、不動産コンサルタント業等
Webサイト
https://www.daiichi-fu.co.jp/