そもそも、「居抜き」とは?

居抜き物件とは、前テナントが使用していた内装や設備(厨房、空調等)、什器などが、残ったままの状態になっている店舗物件のことです。変化が加速する現代において、「居抜き」はリスク要因をカットできる出店形態として、より注目されています。

居抜き物件のメリット

それでは、まずは「居抜き」のメリットについて見ていきましょう。

1)改装費・設備費などを節約できる

前テナントが使用していた内装や設備をそのまま利用できるため、改装や設備導入にかかる初期投資を少なく抑えることができます。

2)工事期間を短縮できる

内装、設備があらかじめある程度揃っているため、入居までの工事期間も短く、開業までの賃料負担も最小限で抑えることができます。

3)近隣の認知度が高く、以前からの顧客を取り込みやすい

例えば、以前に飲食店をやっていた居抜き物件に入居して、また飲食店をやる、といったケースを想像してください。そのような場合、近隣の方たちは、「この場所には飲食店があったな。そして、次も飲食店なんだ」と、自然に認知するだろうと想像できます。つまり、前テナントの認知度を受け継ぐことができ、場合によっては、前テナントの顧客を取り込むこともできるかもしれません。

4)開業コストを早めに回収できる

「居抜き」のメリットとして、「出店時にかかるコストが低い」とお伝えしましたが、それはつまり、「開業コスト(=出店時に投下した資金)を、早い段階で回収することができる」ということ。開業コストの回収が済んでしまえば、そこからは、経営基盤強化やサービス向上のための追加設備投資などに、資金が回せるようになります。

居抜き物件のデメリット

メリットの多い「居抜き」ですが、もちろん、デメリットもあります。こちらも、しっかりとチェックしていきましょう。

1)前テナントのイメージが残る

「居抜き」には、良くも悪くも、前テナントの印象が根強く残るケースがあります。前テナントが同業種で、悪いイメージを与えていた場合(例えば、飲食店だった場合、騒音やゴミの処理などで近隣の方々に迷惑を与えていた、など)、新しく入居するあなたにとっても、その悪印象が不利に働く可能性も。その際には、イメージ刷新のための努力を図っていく必要があるでしょう。

2)前テナントが撤退した相応の理由がある

前テナントが閉店を決意したということは、無視できない、その物件につきまとう不利な“理由”があるのかもしれません。立地、賃料、近隣の環境、人通り、などなど。前テナントが撤退した“理由”について、しっかりと考えを巡らせるのも大切です。

3)設備が使えない可能性もある

経年劣化などで、以前の店舗から引き継いだ設備が正常に稼働しない、というケースもあります。その場合、設備改修に思いもよらない費用がかかったり。そもそも、自身の店舗と前テナントの設備が合わない可能性もあります。

4)内装・レイアウト変更の自由度が低い

内装・レイアウト変更について、以前の店舗の内装や設備、什器がある状態から行うことになるため、「スケルトン」のようにまっさらな状態から店舗をつくる場合とは違い、変更の自由度はどうしても低くなります。現況の内装・レイアウトが気に入らず、こだわって改装工事をするといった場合、その分、想定以上のコストがかかってしまうこともあり得ます。そういったことを避けるためにも、「現況の内装・レイアウトで問題ないか」「不具合はないか」「過剰でないか」等を、事前に確認した上で、契約するようにしましょう。

「居抜き」と「スケルトン」を比較

「居抜き」と「スケルトン」。店舗物件を探す際に、よく目にする言葉だと思います。さて、このふたつの特徴あなたは明確に説明できますか? 大事なポイントですので、じっくり見ていきましょう。

1)スケルトン物件とは

スケルトンとは、建物を支える骨組みのこと。構造躯体(くたい)ともいい、柱・梁・床といった、構造体の強度を形成する部材のことを指します。店舗物件探しの文脈で出てくる「スケルトン物件」というと、店舗の構造体以外の部分、つまり、内装設備がない、からっぽの物件のことを意味します。物件の骨組みだけの状態なので、いわば無地のキャンバスのようなもの。どんな内装にするか、どんな設備を設けるか、あなたのオリジナリティを存分に発揮することが可能です。

2)スケルトンのメリット

  • 自由度が大きい
    自分の好きなように、自由に内装をデザインすることができます(イメージ通り、自由に造作できる)。

  • 前店舗のイメージを引き継がない
    「3. 居抜き物件のデメリット」の中で触れた「居抜き」のデメリットとは反対に、スケルトン物件では、内装はないので、前店舗のカラーに引きずられることなく、まっさらなイメージでスタートを切ることができます。

  • 設備の管理がしやすい
    上記同様、設備や機器も、ゼロから自分で選ぶことができます。初期費用はかかりますが、自分が選んだものなので全容を把握しやすく、納得感も安心感もあるというのは、大きなメリットです。

3)スケルトンのデメリット

  • 居抜きと比べて、コストがかさむ
    スケルトン物件では、内装から工事していくことになるため、内装・設備がすでに揃っている居抜き物件と比べると、初期投資にかかるコストが大きくなります。業種別に坪単価も異なりますが、工事箇所が増えれば増えるほど、そして、デザイン・意匠に凝れば凝るほど、当然、内装工事費用(デザイン料金込み)も高額になります。

  • 工期が長期間に及ぶため、開業までに時間がかかる
    居抜きと違い、内装工事から始める必要があるため、オープンまでに時間がかかります。その間、賃料も発生するので、コストもかさみます。

  • 近隣に認知されるまでに、時間と労力がかかる
    居抜き物件と違って、前の店舗が培ってきたイメージを引き継ぐことはなく、イチからお店を周知していく必要があります。

このように、スケルトン物件は、いわばゼロから店舗としての価値を積み上げていかなければならず、それにかかるコストと時間をしっかりと見積もる必要がある、というわけです。

4)「居抜き」と「スケルトン」のどちらを選ぶ?

  • 「リーズナブルさ」と「スピード」を重視 → 居抜き物件
  • 「カスタマイズ性(デザイン性)」と「自由度」を重視 → スケルトン物件

つまり、

1、初期投資にかけられる予算が少ない場合
2、オープンまでにかけられる期間が短い場合
3、はじめて店舗経営にチャレンジする場合

どれかひとつでも当てはまれば、居抜き物件を探すのがおすすめです。

はじめて店舗経営に挑戦する場合は、まずは初期投資を安めに抑えるのが定石。居抜き物件からスタートするのが良いでしょう。その上で、店舗経営の経験を積み、必要資金を蓄えることができたら、2店舗目から、自分の想いやアイデア(事業計画)を存分に活かせるスケルトン物件を選ぶ、というが良い戦略だと思います。

居抜き物件の注意点(リスク)について

居抜き物件はメリットも多いながら、デメリットもあるということを確認してきました。さらに、ここからは、より細かい注意点について、見ていきたいと思います。

1)造作譲渡

内装・設備をそのまま利用できるのが居抜きのメリットですが、居抜き物件の中には、造作譲渡料を求められるケースもあります。造作譲渡料とは、居抜き物件に残されている内装・設備などを利用するために買い取る必要がある場合にかかる費用のことを指します。

以下、造作譲渡料が求められる場合と求められない場合のコスト(賃料除く)を、簡単にまとめてみました。

■内装・設備がそのまま残っていて、それらが無償で引き渡される場合、必要なコストは…

 =入居費用のみ

■内装・設備がそのまま残っているが、それらを有償で買い取らなければならない場合、必要なコストは…

 =入居費用+造作譲渡料

■さらに、引き継いだ設備が痛んでいて、実際には使用に耐えない、といった場合もあり得ます。その場合は、新たに買い換える必要が生じてくるため、結果、さらに追加の造作工事費が発生するので、要注意です。その際の必要コストは…

 =入居費用+造作譲渡料+造作工事費

2)リース契約

居抜き物件の契約に際して、見落としがちなのがリース契約です。空調設備や厨房機器など、店舗内に残されている内装・設備を引き継ぐ場合は、以下の点をしっかりと確認しておくようにしましょう。

1、店舗内にある設備・機器のうち、リースのものはどれか
2、リース機器・設備が正しく稼働するかどうか
3、リース内容の詳細を把握(残額、契約年数など)

これらの確認を怠って、オープン後にリース契約の設備や機器があったことが判明した場合など、最悪、リース会社によって、そのリース設備・機器が回収されてしまう、なんてことも起こり得ます。もしもの時のために、内装譲渡契約を行う際には、弁護士等に依頼するなどして、リース関連の問題が生じた場合についての条項を、あらかじめ契約書に入れておくことも大切です。

3)オーナーの了解

店舗物件の契約書には、基本、「内装譲渡禁止」や「原状回復義務」等の条項があります。そのため、居抜き状態での引き渡しについて、前テナントとの間で話がついていたとしても、物件オーナーから了解が得られていないと、居抜きでの引き渡しはできないので注意が必要です。

まとめ

ここまで、「居抜き」についてのメリット・デメリットや注意点などを確認してきました。リーズナブルかつスピーディに開業できるからといって、チェックポイントを知らずに契約すると大きな落とし穴にはまる恐れがあるので、気をつけましょう。