日本の商業施設を取り巻く環境

まず、日本の商業施設を取り巻く環境や現状について、各々がどのような考察を持っているのかを聞いてみました。

<アパレル不振>

アパレル不振については、

「全世代でファストファッションの支持率が高くなってきている」
「いいものが安く買え、長く使えれば、それ以上は要らない」

といった消費者の価値観の変化を指摘する声がありました。

商業施設デベロッパーからは、

「アパレルテナントの出店構成比が減少し、サービス系テナントが増加傾向にあるが、賃料水準がアパレルよりも低いのが課題である」

との声がありました。

ほかに、

「外資系ファストファッションブランド撤退などのニュースで、『日本の商業施設は大丈夫か?』との声を聞くが、過剰反応であると感じている。ブランド間競争の結果であり、かつ、数ある取引先1社の話で、影響はほとんどない」

との意見もありました。

<Eコマース(EC)>

EC台頭に関しては、ヒアリングを実施した各社それぞれ戦略を検討しているようです。例えば、

「食料品、コト消費、サービステナントなどを中心にNSCを構成する」

といったECの影響を受けにくい商業施設や、大型施設であっても、

「リアル店舗でなければできないことがあり、それは『お客様に買い物を楽しんでいただくこと』そのために何をすべきか考える」

など、リアル店舗をさらに充実させていく考えが目立ちました。

リアル店舗の充実に関して別のヒアリング先からは、

「集客力のある食料品テナントを誘致しないと商業施設は厳しい。また、アパレルをリアル店舗で売るためには、もっと従業員の接客、コーディネートの教育が必要。現状は単なるオペレーターになってしまっている」

との意見もありました。

<少子高齢化>

少子高齢化については、

「郊外型の商業施設は、人口減少、高齢化などの影響で車を使って来てもらうのが難しい。将来、完全自動運転が可能になったら高齢者も行きやすくなり、郊外立地であることのデメリットは減る。一方で、自動運転によって良い商業施設とそうでない施設の選別が進むだろう」

との指摘があります。同様に、

「高齢化による免許返納が増えてくるだろうが、無人運転も出てくるだろうし、さほど心配していない」

との声がありました。

<人手不足>

新規出店時の人材採用については、

「大手の総合人材サービスと人事でコラボしている。また、パート・アルバイトが同じ施設で、午前A店、午後B店で働いてもよく、デベロッパーとして規制していない(ライバル店はNG)」

との声がある一方で、

「人材が集められないので出店を控えており、採用した人材の定着率も低い。採用できなければ派遣にお願いしないといけないが、人件費が嵩む」

との声もあり、人材採用と定着率向上が喫緊の課題であることがうかがえます。

<米国との相違>

米国との相違としてマーケットの違いがあげられ、

「米国はこれからも人口増加が見込まれるが、日本は減少していく。人口密度などマーケットのベースが異なっており、戦略面で米国に追従していくことはリスクにもなりうる」

との意見がありました。

これからの商業施設のありかた

次に、現状を踏まえた上で、商業施設はこれからどうあるべきだと考えているのかを聞いてみました。

<消費者にとっての新たな価値の提供>

現在、消費者が商業施設を選ぶ基準は核店舗の強弱ではなく、「消費者にとっての価値」になっています。

「圧倒的地域一番店として、消費者に様々な顧客体験を提供する」
「生活密着型のNSCで利便性を提供する」

または、

「催事やイベントなど何かいつも面白いことをしているなど、生活シーンの中で価値を提供すること」

との声があるように、消費者に対してその施設にわざわざ行く目的、価値をいかに提供できるかが鍵になると考えられます。

<デジタル化>

日本における商業施設のデジタル化は諸外国と比べて遅れているとの認識が多く、

「中国に学ぶ必要がある。行く先々のお店の予約が全てスマホでできるなど、中国で当たり前のことが日本はまだできていない」

「デジタルネイティブがそろそろ親になり、5Gの普及もあいまってデジタルの重要性が増す。ライブ中継を多拠点・双方向に同時配信し、アイドルのライブや落語会がバーチャルで行われるなど、これまで都心に出ないと体験できなかったことが郊外の商業施設でも可能になる」

など、5G時代の商業施設のありかたを考えるべきとの声がありました。

<不動産事業化(複合化)>

近年の商業施設においては、アパレルテナントの面積比率は減り、非物販・サービステナントの比率が増える傾向にあります。アパレルは賃料水準が相対的に高く、これに代わる収益源の確立が必要となってくるため、

「違う事業の柱として、上層階がオフィスの商業施設を開業予定。建築費が高騰していることもあり、オフィスを入れることにした。このフォーマットが成功したら今後も続ける」
「オフィス、住宅などが成立する立地ならば、低層階が商業施設、上層階がオフィス・住宅の複合型が不動産施設としては最も効率が良いのではないか」

との声がありました。今後は、立地・マーケットに応じてオフィス・住宅・物流施設などを導入し、余剰床の活用や不動産収入を新たな柱とする商業施設が増えてくるのではないでしょうか。

<地域との共生>

これまで、多くの商業施設が行政施設の導入や、防災拠点として施設の開放、生活環境改善への取り組みなど、様々な形で地域との共生を図ってきました。ここでは、これからの商業施設に求められる共生のありかたについてのヒアリング内容を紹介します。

一つはサードプレイスとしての商業施設で、

「自己発見、自己実現、自分でいられる場所。家(ファースト)、学校・会社(セカンド)、自分でいられる場所(サードプレイス)で、体験や自己啓発を通じて自分を磨けますよ、という施設が生き残るのではないか」

との意見です。

別の意見としては、

「地域住民にとって商業施設が買いたい場所&居たい場所と認識してもらうために、さらに様々な工夫をして商業施設を進化させていく必要がある」

といったものがありました。

これからの商業施設に必要なもの

Vol.1から5回にわたり考察してきたように、日本は米国ほどオーバーストアの状況ではないため、商業施設が次々と閉鎖されるような事態は考えにくいでしょう。今までも、そしてこれからも商業施設自体は世の中に必要な不動産であり続けることに間違いはありません。

しかし今後は、加速する時代や社会の変化により、選別・淘汰が進むことになるでしょう。顧客に支持され、選ばれる商業施設であり続けるためには、時代の変化や顧客ニーズに敏感になり、商業施設が単に箱としての不動産ではなく、しっかりした管理や柔軟なオペレーション、テナントミックスなど、総合的なマネジメント力を身につけることが必要です。