取り組みが始まった背景

来客数・職員数が減少、店舗の空きスペースが増加

かつての金融機関では、事務処理をマンパワーに頼る部分が多く、どの店舗にも大勢の職員が配置されていました。また、ネットバンキングなどない時代でしたから、来店客数は今よりもはるかに多く、おのずと広い面積の店舗が必要とされていたのです。
しかし、近年、IT技術が発達して、事務作業や金融取引が電子処理できるようになると、職員数も来店客数も徐々に減っていきました。さらに、効率化を目的とした事務処理の本部集中化が進んだ結果、多くの店舗で空きスペースが生まれてしまったのです。そのため、良い活用方法はないかと悩んでいました。

規制緩和で、所有不動産の賃貸が可能に

こんな時、普通の自社ビルならば、空きスペースを外部テナントに賃貸して収益化するでしょう。しかし、金融機関の場合、金融庁の監督指針によって、所有不動産を賃貸することが禁止(他業禁止)されていたのです。
ところが近年、全国各地で遊休不動産を抱える金融機関が増えたことや、経営環境の変化などにより、地域活性化や公共性が認められる事業については所有不動産を賃貸してもよいと、2017年に金融庁の監督指針が緩和されました。
そこで、城北信金は、店舗の空きスペースの利活用を考えることとなりました。
では、実際にどうやって活用しているのか、3つの事例をみていきましょう。

[CASE1] 店舗の一部を賃貸に

①店舗→認可保育所

埼玉県川口市にある城北信金 芝出張所には、毎朝、赤ちゃんから未就学児まで70組ほどの親子が次々とやってきます。なぜ、信金に親子の姿が?それは、店舗の2階を認可保育所に賃貸したからです。

城北信金 芝出張所。築37年 (改修時点)の店舗にルーバーを取り付けて今風のデザインにリニューアル。避難路階確保のために外階段を新設した。

1982年にオープンした芝支店は、2005年に拠点の統廃合で出張所に変更されました。それにより、一時期は20数名いた職員が3~4名までに減り、特に、営業担当者の事務所として使われていた2階は使いみちがなくなって、がらんどうの状態が続いていました。そこで、2階を改装してまるごと保育所に賃貸することにしたのです。

芝出張所の2階にオープンした、認可保育所「Gakkenほいくえん 川口芝」の様子

東京のベッドタウン・川口市では若い子育て世帯の増加から、待機児童が深刻な問題になっていました。特に芝出張所のあるエリアは「平成31年度 認可保育所整備事業者の重点募集地域」に指定されていることからも、地域のニーズが高いことは明確でした。そのため、金融庁の監督指針にも合致し、不動産賃貸の許可を得ることができました。そして、2020年、認可保育所のオープンにこぎつけたのです。

②店舗→サテライトオフィス

同じく、花の木橋出張所(東京都荒川区)と上野支店(東京都台東区)でも、店舗の中に空きスペースを抱えていました。特に、花の木橋出張所は無人店舗になってからATMコーナーだけがぽつんと残されていました。

城北信金 花の木橋出張所にオープンした、ZXY(ジザイ)のエントランス

そこで誘致したのがサテライトオフィス ZXY(ジザイ)です。折しも、国を挙げて働き方改革が始まった時代でしたから、テレワークに欠かせないサテライトオフィスは公共性の高い事業とみなされ不動産賃貸が認められました。

花の木橋出張所1階にオープンした、ZXY(ジザイ)の様子

[CASE2] 遊休不動産をリノベーション

倉庫→インキュベーションオフィス兼カフェ

おしゃれなデザインは、地元のNPO法人と城北信金のコミュニケーション開発事業部が協働して作り上げたもの

東京都荒川区にある町屋支店では、敷地内にあるほとんど使われていなかった倉庫を改装。2019年、2階建てのインキュベーションオフィス施設に生まれ変わりました。
インキュベーションオフィスとは、創業支援を伴うレンタルオフィスのこと。創業家、地元企業、地域住民が集い語り合える、「交差点」のような場所になるよう願いを込めてCOSA ON(コーサオン)と名付けました。

2階のインキュベーションオフィスには、2~3名用のオフィスが8部屋と、入居者が集うラウンジ。単にオフィスを貸すだけではなく、専門家や城北信金の職員が常駐し、創業支援や経営改善のアドバイスをいつでも受けられるのが大きな特徴です。さらに、入居企業と地元企業とを繋ぐ橋渡しができるのは、城北信金ならではの強み。
入居期間は原則3年間ですが、事業拡大のため期限を待たずに卒業していく企業も少なくありません。

2階インキュベーションオフィスの様子

しかし、なぜ、この場所にインキュベーションオフィスを作ったのでしょうか?
聞けば、信金の本店がある荒川区では廃業する企業が増え、事業所数が伸び悩んでいるといいます。
「地元のスタートアップ企業の育成をサポートし、町を元気にしたい」
そんな強い思いからCOSA ONは生まれました。
信金がインキュベーションオフィスから得る賃料収入は少額ですが、企業が育ち、ゆくゆくは地元の企業として長いお取引ができる関係になれれば、という期待もあります。

1階では地元NPO法人が運営するカフェが営業していて、昼夜を問わず近隣住民で賑わっています。

1階カフェの様子。特にランチタイムは地元の若いママ達から人気。予想以上の反響に信金の担当者も驚いたそう。

もちろん一般の方も利用できますが、カフェの中にインキュベーションオフィス入居者専用のミーティングルームがあり、現在はコロナで自粛中ですが、地域を巻き込んだイベントも計画されています。
スタートアップ企業と地域住民、地元企業との交流や出会いを誘発することで、地域を盛り上げたいという信金の願いがここにも詰まっているのです。
また、一般的に信金のメイン顧客はその地域の中小企業と個人客ですが、COSA ONの存在は、城北信金の認知度向上とブランディングにも確実に寄与しています。

店舗を賃貸するための課題とは?

CASE1で店舗を賃貸するにあたっては、様々な課題がありました。

①財務局との事前協議

1)テナント選定

監督指針の緩和で不動産賃貸が可能になったとはいえ、どんなテナントにも貸せるわけではありません。事業内容に公共性があり、かつ地域からの要請に応えうる企業・団体でなければならないという条件があります。もちろん、金融機関のイメージを崩すような反社会的なテナントは絶対に避けなければなりません。

2)事業の安定性

安定した経営が求められる金融機関ですから、不動産賃貸業に過大投資してロスを出すことは、絶対に許されません。そのため、不動産賃貸事業の安全性について監督指針をクリアできるのか、財務局との事前協議には労力を費やしました。

②情報漏洩を防ぐための導線設計

当然ながら、金融機関の店舗は賃貸を想定して設計されていないため、入口と出口がひとつずつしかありません。しかし、情報漏洩を防ぐには、賃貸テナント専用の出入口を用意して信金との導線を分ける必要があります。
そのため、保育所のケースでは、元々あった通用口を保育所の入口として使って、信金の通用口は新しく設置しました。また、サテライトオフィスのケースでは、1階のエントランスをテナント専用の出入口としてそのまま転用。2~3階で営業を続けている信金の事務所には、裏手の通用口と階段を使って出入りします。
しかし、このようにうまく導線を切り分けられる物件ばかりではありません。空きスペースはあっても導線を切り分ける改修が難しく、賃貸を諦めた物件もあります。

③テナントニーズに合う立地条件

信金の主な顧客は住宅街や工場街に集中しているため、店舗があるのは一般的に賃貸ニーズの高い駅前立地ばかりではありません。むしろ、駅から離れた店舗が多く、空きスペースがあっても立地条件が合わず賃貸に出せない物件もありました。
例えば、サテライトオフィスZXYの場合、駅近の立地だけに限定しているため、条件に合致したのは花の木橋出張所と上野支店の2ヶ所だけでした。

さいごに

デジタル化によって金融機関が受けた影響は、業務効率化に伴う人員削減だけではありません。ここ数年は、手軽で効率的なイメージをウリにしたFinTech(フィンテック…ITを活用した金融サービス)企業の台頭によって、生き残りをかけた差別化が急務になっています。そんな中、信金が持つ地域との強固な繋がりは、なによりのアドバンテージになるでしょう。今後も、地域貢献と遊休不動産の利活用を両立した城北信金ならではのチャレンジが続きます。

今回、取材に応じていただいた企業様

城北信用金庫

城北信用金庫

創立
大正10年5月31日
本部所在地
東京都北区豊島1-11-1
本店所在地
東京都荒川区荒川3-79-7
店舗数
90店舗(うち7出張所) ※令和5年3月31日現在
常勤役職員数
1,874人 ※令和5年3月31日現在
Webサイト
https://www.johokubank.jp/