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調査・マーケティング ― ポストコロナ時代の商業施設を考える Vol. 3
5つのトピックスから考える商業施設の“これから” (後編)
公開日:2022年3月31日
コロナ禍を経験した商業施設は、Vol.1、Vol.2でも確認したように、社会情勢や消費者行動・価値観の変化の影響を受け、それらに対応するためのスピーディーな変化・進化が求められています。
Vol.3では、コロナ収束後2~3年のポストコロナ時代、商業施設において何がトレンドとなり、どのような課題が浮き彫りになるのかについて、5つのトピックスに分けて考察しています。
INDEX
実感できるサステナビリティ
今までは、商業施設における取り組みの個別事例として地域の防災拠点化、自然環境の保護、カーボンニュートラルなどが語られていました。しかし、2015年にSDGsが定義されて以降、サステナビリティは商業施設においても大きな課題となりました。
さらに、コロナ禍を経験して消費者のSDGs認知度が上がってきています。2021年には中国新疆ウイグル自治区の強制労働の疑いが世界的に報道されたこともあり、今後は環境や人権など何らかの犠牲の上に立つ商品は購入しないと考える消費者が増えていくでしょう。
特に、日本のアパレル業界は大量生産・大量廃棄を前提とした商習慣が根付いています。事業構造の転換やサステナブルなファッションへの転換は喫緊の課題といえます。
具体的な取り組みとしては、3R(Reduce・Reuse・Recycle)を活用して商品のライフサイクルを循環させるビジネスモデルへのシフト、商品売上の一部が途上国で飢餓に苦しむ地域に寄付されるフェアトレードの活用、ファッションアイテムレンタル事業などがあげられます。
不動産デベロッパーや大手小売業がパリ協定を契機に、気候変動に対応した経営戦略の開示(TCFD)、脱炭素に向けた目標設定(SBT)、使用電力を100%再エネで賄うことを目指す枠組み(RE100)などを通じた脱炭素経営に取り組む動きが進展しています。環境意識の高まりから、日本でも脱炭素が一流企業の条件になり、商業施設の出店や取引、集客に影響を及ぼしかねない状況になりつつあります。今後、この動きはさらに加速していくでしょう。
ほかにも、大量生産・大量消費の現代社会に疑問を持ち、「ごみをゼロにする」ことを目標に、できるだけごみを減らしていこうとするゼロ・ウェイストの取り組みも広まってきています。
2021年7月には、日本初のごみの出ない食品スーパーが開業しました。このスーパーでは18時以降、料理に当日の食材を利用したゼロウェイスト・レストランを運営しています。
これからは、出店テナントや消費者がサステナビリティへの貢献を実現・実感できる商業施設へのブラッシュアップが課題となるでしょう。
柔軟なビジネスモデルへの転換
コロナ禍を経験した商業施設は、社会情勢や消費者行動・価値観の変化の影響に対し、常に変化・進化していくことが求められています。そのためには、変化に対応できる柔軟なビジネスモデルへの転換が必要不可欠です。
ここでは、「床需要の変化」「物流拠点化」「顧客ニーズの変化」の3つのキーワードについて考察します。
床需要の変化
多くの商業事業者は、全国あるいは複数エリアにおいて多店舗展開をしており、各地で出退店を繰り返しています。その根底にあるのは消費者動向であり、売上・利益であり、床需要(ニーズ)です。
コロナ禍によって多くの事業者が不採算店舗の整理・統合を行い、消費者の人流の変化などの影響を受けました。今後、地方都市だけでなく、都心部でも駅前・駅近にある商業施設の空床が増加していく可能性があります。
これまでは、後継テナントは商業事業者(小売業・飲食業・娯楽業・サービス業など)であるケースが大半でした。しかし、これからは非商業事業者の誘致が増えていくでしょう。
例えば、テレワークの普及に伴い、比較的賃料負担能力の高いフレキシブルオフィスの導入増加が見込まれます。今や、「商業施設だから商業利用が当たり前」といった時代ではありません。そこに存在する「空間・スペース」を、世の中の変化と当該物件の特性を考慮し、どのように利活用するのが最も良いかを柔軟に考えることが求められるでしょう。
特に、総合スーパーが核店舗となる駅前・駅近の商業施設などは、郊外型商業施設と比べて店揃え・品揃え・駐車場台数などの点で競争優位性が低く、施設自体の需要減少が続いています。今後、このような施設は経済合理性に基づいた利用方法を検討する必要があります。
築古化した商業施設のスクラップアンドビルドや用途変更は従来から行われているものの、「守り」ではなく「攻め」の店舗戦略として、今後さらにその重要性は増していくでしょう。老朽化した設備や多くの空床を抱えたままで営業を継続するよりも、コロナ禍で変化した消費者ニーズに対応した施設に生まれ変わり、不動産の価値を向上させていくことのほうが中長期的なメリットは大きくなります。さらには、地域の活性化にもつながっていく可能性もあります。
商業施設とオフィスビルが融合したイオンモールNagoya Noritake Garden/BIZrium 名古屋(2021年開業)のように、立地によっては低層階が商業施設、上層階がオフィスや住宅などの複合型施設といった「不動産事業化」を志向する開発計画の増加が見込まれます。大手百貨店でも、自社運営を少なくしてテナント比率を増やす動きが目立っています。従来の商業事業に加え、不動産事業を2つ目の有力な柱とする事業者が増えていくでしょう。
商業施設ごとの商圏・マーケット・需要と供給のバランスにより、床需要の変化にどのように対応するかは異なります。しかし、今そこにある空間・スペースをどう利活用するのが最善であるかを検討するために重要なことは共通しています。それは、テクノロジーをベースとした「情報の量・質・スピード」です。
これからは、業種・業態、または商業・非商業の枠をこえて情報をミックスし、最適・柔軟にマッチングを実施していく「不動産情報のマッチングプラットフォーム」が必要となるでしょう。一部では、すでにそのようなプラットフォームの開発・運用が進んでおり、今後の活用が期待されます。
物流拠点化
2019年、ケネディクス商業リート投資法人は、九州に保有する商業施設で、車両間の荷物の積み替え場所として使用することを目的とした土地賃貸借契約を、大手運送会社と締結しました。今後、このような「商業施設」と「物流施設」の融合事例が増えていく可能性があります。
楽天と西友、Amazonとライフコーポレーションなどは、互いに提携してネットスーパー事業を強化しています。現状は限定されたエリアでのサービスですが、ライフコーポレーションでは店舗に物流倉庫の役割を付加し、生鮮食品の最短2時間でのお届けを実現しています。また、米国のWalmartも約3,000店舗で2時間宅配サービスを実施しており、配送エリアは全人口の70%近くをカバーしています。
コロナ禍の影響で、コンビニ業界は2020年の国内市場が初めてマイナス成長となりました。そうしたなか、セブン-イレブンが2025年を目途に、最短30分で商品を届けるサービスを全国展開すると発表しました。店舗の物流拠点化により、店内のほぼ全ての商品を即時配送することができ、顧客の利便性向上を図るとともに、企業のさらなる成長も目指しています。
ネットスーパー事業は、多くの食品スーパーが売上・競合対策として実施しています。しかし黒字化が難しく、撤退事例も多くあります。
経済産業省が7月に公表した2020年度の食品、飲料、酒類のBtoC-Eコマース市場規模は約2.2兆円で、巣ごもり消費の増加もあり、前年対比+21%と大幅な増加となりました。しかしながらEC化率は3.31%と、ほかの商品カテゴリーと比べるといまだ低水準にあります。伸びしろは大きいものの、黒字化の事業モデルを構築できるかが課題となるでしょう。
顧客ニーズの変化
消費支出のボリュームゾーンは世帯主50歳以上であり、今後、少子高齢化の進展によってさらにシニア層の消費インパクトが増加していきます。また、近年「アクティブシニア」という言葉があるように、平均寿命や健康寿命の延伸によりライフスタイル、消費者行動・価値観は活発化・成熟化・多様化してきています。
従来、車での来館比率が70%~80%を超える郊外型の商業施設は、主にファミリー層を顧客ターゲットとしていました。今後は少子高齢化によって来店客層の高齢化が進んでいきます。しかし、現在のアクティブシニア層は自身を高齢者として括られることに共感しない割合が多く、従来型のシニアマーケティングにはあてはまらない可能性があります。そのため、施設の性格をシニアセンター化する必要はないと思われます。
施設の主要顧客はファミリー層のままとし、それに加えてアクティブシニア層の来館を促す居場所や仕掛け(健康増進・生涯学習など)を取り入れ、ソーシャルセンターの機能を付加していくべきでしょう。
シニアニーズの把握は大切ですが、これに加えて若い世代のニーズ変化にも留意する必要があります。ミレニアル世代が今後、40歳代となり消費ボリュームが大きくなっていき、Z世代も結婚して家族を持つ年齢に差し掛かっています。
例えば「エシカル消費」など、デジタルネイティブである彼らのライフスタイル・消費ニーズの変化を把握することが重要です。商業施設には、これまでとは異なる居場所、モノ、コト、サービスが求められていくでしょう。
最後に
今回は、商業事業者へのアンケート調査結果に基づき、社会情勢や消費者行動・価値観の変化を客観的に捉え、そのなかでも特にポイントとなりそうなキーワードについて確認しました。その上で、これからの商業施設の5つのトピックスについて、そのトレンドと課題を整理してみました。
2021年12月現在、日本国内における新型コロナウイルスの新規感染者数は落ち着いてはいますが、海外では感染者数の増加に歯止めがかからない国も多く、新たな変異株発生による第6波の到来も懸念されています。世界的に経口治療薬などが普及し、新型コロナウイルス感染症が季節性インフルエンザなどと同レベルのリスクとなるには、ある程度の時間が必要かもしれません。
しかし諸外国と同様に、日本も経済再起動に向けて舵を切っています。コロナ禍で逆風の中にあった商業施設がフォローウィンドの波にのるチャンスが近づいているといえるでしょう。
ポストコロナ時代の消費者に支持され、選ばれる商業施設であり続けるためには、加速する社会情勢や消費者行動・価値観の変化を正しく把握し、柔軟に、スピード感のある戦略の進化・変革が求められています。