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知識・ノウハウ
用途変更をわかりやすく解説! ~ これまでと違う業態を誘致するには ~
公開日:2022年3月30日
オフィスだった賃貸物件を飲食店に変えるなど、建物の使いみちを変えることを「用途変更」といいます。用途変更はテナント誘致の大きな切り札になる一方、様々な法令が絡んだり、費用や期間が予想以上にかかる可能性もあることから、正しい知識を持っていないとトラブルに発展するリスクがあります。このコラムではこれまでとは違う業態を誘致する際に不可欠な知識を分かりやすく解説します。
INDEX
用途変更とは
どんな建物でも新しく建てる時には、建物の“用途”つまり使いみちを、必ず定めなければならない決まりになっています。用途とは、例えば事務所や飲食店、共同住宅、工場などのことですね。
そして、定めた用途以外でその建物(区画)を使う場合、用途変更の手続きが必要となる場合があります。手続きは書類申請だけで済む場合は少なく、ほとんどのケースでは、用途ごとに設けられた建築基準法・消防法・条例など、法令をクリアできるように改修工事を行う必要があります。
なぜ用途変更が必要なの?
例えば、デスクワークを想定して設計される「事務所」と、不特定多数が出入りし、一日中、火を使った調理が行われる「飲食店」では、建物を安全に使うための設備や法令が全く異なります。このように建物の使いみちによって、避難経路や換気設備、消防設備、耐荷重などの安全基準や環境対策が異なるため、用途変更の確認申請をして安全な建物であると証明しなければならないのです。
用途変更の確認申請が不要な場合もある
ただし、どんな場合でも用途変更の確認申請が必要なわけではありません。
必要になるのは、以下の2つどちらにも当てはまる時だけです。
①用途を「特殊建築物」に変更する
「特殊建築物」とは、例えば不特定多数が一度に大勢集まる映画館やホテル、百貨店、より厳しい防火対策や衛生対策が求められる飲食店など、簡単にいえば、より厳しい安全対策などが求められる建築物を指します。ちなみに、事務所や共同住宅はこれに含まれません。
なお、特殊建築物に変えるといっても、同じような用途(=類似用途相互間)は対象に含みません。例えば、カフェを焼肉店に変更する場合、業種は違いますがどちらも「飲食店」ですから確認申請は不要です。
【注意!】
ただし類似用途でも第1種低層住宅専用地域などの用途地域にある場合、申請が必要になるケースがあるため、建物が所在する自治体に確認するのが確実です。
②用途変更する床面積が200㎡超
特殊建築物に用途変更して使用する床面積が200㎡を超える場合、確認申請が必要です。つまり、200㎡以下なら確認申請はいりません。200㎡というと約60.5坪ですから、コンビニくらいの広さですね。そこまで大きくない区画や建物でも、意外と該当することが多いのです。
※2019年6月25日施行の建築基準法改正により、用途変更時の確認申請が必要な特殊建築物の規模が100㎡超から200㎡超に引き上げられました。(参考)小規模な建築物の所有者の皆様へ/国土交通省
押さえておきたい用途変更の注意点
①過去にその建物内で用途変更した面積を合算する
例えば、事務所ビルの1フロアに300㎡の募集区画があったとします。オフィスとして貸すつもりでしたが、なかなか入居者が決まらなかったためフロアを分割し150㎡をカフェを営むテナントに貸し出すことになりました。この場合、用途変更して使用する面積は200㎡以下ですから確認申請は不要です。しかし、その3ヶ月後、分割し空室となっていた残り150㎡の区画にラーメン店が入居するとなった場合には、「飲食店」の用途に使われる面積が合計300㎡になるため、用途変更の確認申請手続きが必要になります。
②確認申請は不要でも、法令遵守と適切な維持管理が必要
もちろん、確認申請がいらないからといって建築基準法や消防法に適合しなくて良いわけではありません。更に、用途地域や自治体独自の条例などが絡むことがあるので、行政や消防署に相談するか建築士に調査を依頼し、用途に応じた基準や法令がクリアできているか確認すべきでしょう。
【用途変更の確認申請手続きが必要かどうか判断する流れ】
手続き完了までの流れ
次に、手続き完了までの大まかな流れを押さえておきましょう。予想外の工事が発生したり、申請に予想以上に時間がかかったりして「オープンに間に合わない!」なんてケースも…。トラブル防止には正確なスケジュール管理が不可欠です。
①書類と図面の確認
申請に必要な書類や図面(確認済証、検査済証、消防適合証明書、確認申請図、竣工図、構造計算書など)が揃っているかを確認
②関係する法令や条例の確認
新築時から変わった部分がないか図面と照合し、用途変更する特殊建築物に関わる法令や条例の内容を確認
③申請書や図面の作成
用途変更の実績がある工務店や建築事務所に依頼し、行政や関連機関を交えてプランを作成・申請
④工事着工
用途変更の確認済証が交付された後、工事を開始
⑤完了検査
用途変更に関わる工事が終わり次第、工事完了届を建築主事に届け出る他、必要に応じて消防署や保健所などの検査
費用はどれくらいかかる?
改修工事の内容や建物の現況、書類がどれくらい揃っているかなどケースによって千差万別で、費用は数十万円~数百万円まで様々です。用途変更する区画だけの工事で済む場合もあれば、建物に違反が見つかって全体的な工事に発展する事例も少なくありません。
また、参考までに高額になりがちなケースとしては、
- 書類の紛失が多い
- 書類と異なる使い方や造作が発覚した
- 地下階や中層・高層階(低層階であるほど費用が抑えられる傾向)
- 一度に不特定多数の人達が集まる(集会所、映画館、百貨店など)
- 宿泊や就寝を伴う施設(ホテル、診療所、保育所、共同住宅など)
- 自力避難が難しい方が大勢集まる(福祉施設、病院など) などが挙げられます。
確認申請を怠ると法令違反になるおそれも…
用途変更で基準に満たない改修が行われ、建築基準法上で重大な違反が発覚した場合、建物の所有者に対して3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科せられることがあります。また、災害や事故で被害が出た場合、保険金や給付金が支払われなかったり、刑事事件に発展したりするおそれもあります。
まとめ
- 200㎡超の特殊建築物に用途変更する場合、用途変更の確認申請が必要(ただし、類似用途相互間を除く)。確認申請が不要でも建築基準法や消防法等に適合させる必要があるため、管轄の行政や消防署に確認するのが確実。
- 用途変更の手続きにかかる費用は、数十万円から数百万円以上まで、ケースによってかなり幅があり、見積もりを出すだけでも現況調査(数万円が相場)が必要になる。
- 用途変更で基準に満たない改修を行い建築基準法で重大違反が発覚すると、建物の所有者が罰則を受けることもある。