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新しい不動産の使い手たち ― 事例
屋上駐車場が菜園に変身?! / マチノマ大森
公開日:2022年12月26日
東京都大田区、京急線大森町駅から歩いて10分ほどの場所にある商業施設「マチノマ大森」(ザイマックス運営管理物件)の屋上駐車場。その一画にずらりと並ぶのは、白菜や大根など野菜を栽培するコンテナ。休日ともなれば楽しそうに野菜の世話に励む家族連れやシニアで賑わいます。この“コンテナ型菜園”は、初心者でも手ぶらで農業体験ができるとあって近年人気を集めており、都内を中心に次々と出店を増やしています。
この菜園を運営する株式会社アグリメディアは、全国で多くの貸農園を運営する農地ビジネス業界のパイオニアですが、都内の商業施設に出店するのは初めて。もちろん、マチノマ大森の運営会社としても屋上駐車場を貸農園にリニューアルした前例はなく、開業までにはいくつものハードルがありました。
そこで今回はマチノマ大森の施設担当者様に、屋上駐車場を転用した狙いと、それによって施設全体にもたらされた経済効果などについてお話を伺いました。
INDEX
取り組みが始まった背景
更なる来館頻度の向上・商圏拡大したいマチノマ大森と、
出店加速したいシェア畑のニーズが合致
マチノマ大森(以下、マチノマ)は、地上5階建て、総テナント数37という中堅規模の商業施設です。そのため、遠方からもお客様が訪れる郊外の大型ショッピングモールとは違い、一次商圏(※)は主に近隣住民の方々に支えられている商業施設となります。
実際に来館者データを見ても徒歩か自転車でアクセスするお客様が多く、日常使いが出来るテナントやスクールのテナントが入居していることから、週に何度も訪れるお客様も少なくありません。
近隣住民が来館してくれるのは大きな強みですが、マチノマとしては更なる来館頻度の増加と商圏を拡大したいと考えていました。
一方、アグリメディアでは、東京23区内へのシェア畑の出店を加速していました。
コロナ禍以降、レジャー感覚で野菜作りを始める人が急増して、特に都心のシェア畑ではキャンセル待ちが出るほどだったのです。
ただ、京急線沿線のように塩害の影響を受けやすい海沿いの地域は、野菜栽培にあまり適さないとあって生産緑地が少なく、出店したくても用地がなかなか見つからないのが悩みでした。
そんな中、シェア畑を誘致することによって来館頻度の向上、更には品川や川崎方面からも集客できる可能性があるのではないか?マチノマとしてはそのような狙いがありました。
商圏を拡大したいマチノマと、手薄だったエリアに新規出店したいアグリメディアのニーズが上手く合致したのです。
※一次商圏とは、商圏の中でももっとも顧客が多く、来店頻度が高いといわれる範囲。自宅から店舗まで距離にして約800m~1.2km、時間にして約10分〜15分の範囲を指す場合が一般的です。
【関連コラム】
事業用不動産お役立ち情報「商圏調査の方法、何をどうすればいいの?」
また、既存テナントとシェア畑の客層は親和性が非常に高く、アグリメディアとしてもターゲット層が多く来店するマチノマへの出店は大きなメリットになります。
シェア畑のコアな顧客層のひとつが“食育に関心のある若いファミリー層”です。折しも、マチノマにはそのような層をターゲットにした幼児教室や体操教室、英語教室などのテナントが入居しています。しかも、習い事なので少なくとも毎週一度は必ず保護者と一緒に来館してくれます。
なお、屋上駐車場の一部を改装しシェア畑をオープンさせるのにあたっては、数十台分の駐車スペースを減台しなければなりませんでした。
シェア畑開園、施設側で大変だった点は?
屋根も壁もないフラットな屋上駐車場の一部をコンテナ型菜園に改装する。
施設自体はシンプルですし、A工事も多くはないので出店は難しそうには見えませんが、思いもよらない壁が立ちはだかったのです。
(1)建築基準法や条例への対応
出店に関して行政との調整が必要な場合、テナント自身で対応するのが一般的です。しかし、今回は初めてのことばかり。テナントだけでは対応できない点があったため、関係者が一丸となって様々な課題をクリアし出店にこぎつけました。
1. 駐車台数を減らせない?!難航した駐車場条例対応
屋上駐車場の一部を改装してシェア畑を作るためには、駐車台数を数十台減らす必要があります。
しかし、ショッピングモールなど大規模建築物に附設する駐車場については自治体が定める条例があり、台数を減らす際にはこれをクリアしなければなりません。
ちなみにマチノマの場合、付置義務台数を大幅に上回る、余裕のある広い駐車場を設置していました。
「もともと大幅な余裕があるんだから、数十台分、減らしたって問題ないのでは?」と思いますよね。
でも、そう簡単にはいきません。
なぜなら条例では、
「どれだけ付置義務数をオーバーしていても、満車になり、近隣道路に渋滞が発生し得る可能性が少しでもあるならば駐車台数を減らすことは原則的に認められない」
という決まりがあるためです。
なお、マチノマでは2018年の開業以来、満車による近隣道路が渋滞となったことは一度もありません。
しかし、それだけでは自治体の審査が通らないのです。
そのため、満車にならないことを証明するために、駐車場の入出庫や稼働状況、混雑が発生していないという、ありとあらゆるデータを集めて申請しました。
この調整が非常に難しく、関係者と共に、何度も行政と協議を行いようやく受理されました。
2. 耐荷重は大丈夫?構造計算を再確認
野菜を栽培するコンテナの重さは、培養土に水が含まれた状態で1個あたり約250kg。
それを500個も置くわけですから、当初の構造計算を見直さなければなりません。
当初、誘致を予定していたスペースにコンテナを何台置けるかゼネコンに確認したところ、要望の半数以下しか置けないという返答でした。
このままでは出店できない。
そこで、何台のコンテナが置けるのか正確に計算してもらえるよう、詳細なデータを取得し、ザイマックス技術統括部のサポートを受けながらゼネコンと協議を重ねました。
ちなみに構造計算する際には、積載荷重だけでなく保有水平耐力、地震力、各構造材料についての安全率の計算なども必要です。
それらを緻密にチェックした結果、充分な余裕があることが分かりました。
そして、無事、希望通り500個、計250区画を用意し、オープンを迎えることができたのです。