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調査・マーケティング ― マーケティングのヒミツキチ Vol. 2
真夏の有明にマーケティングの神髄を見た
公開日:2024年10月25日
長曽 雅彦
株式会社コネクト 代表取締役
真夏の展示会に現れたオアシス
真夏のビックサイトでの展示会。屋外は35℃を超える灼熱地獄。やっと会場内に入ってほっとするのも束の間。「あれ、館内もそんなに涼しくないじゃん(不快~)」なんてこと、ありませんか?
そんな真夏の展示会に、今年は救世主のようなブースが出現していました。
その名も「IRIAM COOL ZONE」。ブース内は一方通行で、クーラーや扇風機でキンキンに冷やされた中を通り抜けると、出口ではペットボトル水(500ml)が貰えるという、砂漠のオアシス状態でした。
来場者からは「なんだ、この冷え冷えで快適なブースは!?」「ここ、神やった」「普通の広告よりも圧倒的に素晴らしい」と称賛の声が多数挙がっていました。
このブースをつくった「IRIAM」の運営御担当者は、「”自分たちのサービス訴求よりも、<来場者の皆様の役に立つ>場所の提供者になろう”という方針でつくりました」と仰っていました。
結果的にこのブースが、広大な展示会場内で最もウケて、ブランド情報を拡散させていました。
そして、私はここにマーケティングの神髄を見たのです。「こういうことなんだよなぁ!」と。
できそうでできない、徹底した顧客視点ファースト
私が有明で感じた「マーケティングの神髄」の正体。それは「徹底した顧客視点ファースト」、です。
「なんだ、顧客視点なんて手垢のついた考え方じゃん。もう、読む必要ないや」って思った方がいらっしゃれば、「ちょっと待って下さい!」と私は貴方を呼び止めます。
巷にあふれている「顧客視点」と、「徹底した顧客視点ファースト」は全然違うものなのです。
先程の有明の例でご説明しましょう。
先程のイベントはいわゆる”コミケ”で、130の企業がブースを出展し、26万人が来場したそうです。130社の中には「いわゆる顧客視点」からスタートしてブースづくりを行った会社も多々あったことでしょう。一方、会場に足を踏み入れた来場者の頭の中は、まずはこんな感じになっているのです。
なんかヤケに「キンキンに冷えてる」ブースが目につきますよね。そりゃ、そうなんですよ。「IRIAM」のブースだけが<来場者の皆様の役に立つ場所の提供>という考え方からつくられたブースなので。
一方、他のブースでは<顧客視点というお題目を唱えながら、実際は自分たちの会社や製品や サービスをどう訴求するかばかり>考えていたのですから。
「キンキンに冷えているブースに入って体の火照りが急速に冷やされていく心地よさの中、IRIAMのサービスを知って、最後に貰ったペットボトルに感動する」 この一連の流れは、IRIAMへの愛着を感じてもらいながらサービスを認知してもらい、他社との差別化を図りつつ、来場者との強い絆を築くというブランディングにも繋がっています。
更には酷暑が続く中でのトピックとして、多くのマスメディアやSNSなどが取り上げ、IRIAMブランドは全国に認知を広げていきました。
もちろん実際にこのブースを作る上でのご苦労は多かったのではないかと思います。「クーラーの排熱はどう処理するのか」「お客さんが大量に押し寄せた時のオペレーションは」「ペット水だけでもコストが馬鹿にならんぞ」などなど。声の大きい上司が「そんなん、やめとけ」と一言いえば飛んで消えそうなプランですよね(笑)。でも、これらの課題をひとつひとつクリアして実現した。結構、いやかなり大変だったと思います。でも、見返りの果実も実に大きかった、と。
ここまでお読みいただくと、「よくありがちな企業の言う、お題目としての顧客視点」と、IRIAMの「徹底した顧客視点ファースト」が、スタートから違っていることがよく分かるかと思います。「お客さんの頭の中にある価値」からスタートしていくネタって、実は腐るほどたくさんあります。でも、多くの会社ではやらない。何故か? いままで会社の中でそういう発想で仕事を進めなくても、順調に売上や利益が上がっていたから。そもそも面倒だし。。でも、これからもそうなのでしょうか?これから人口減少が進んで、サービスもどんどん進化していく中で、今まで通りで大丈夫なのでしょうか? ほんとに? 私はそう感じています。
勝率を高めるために有効なクスリ
わたしはマーケッターとしての自分に「どうすれば事業の成功確率を高めて、お客様のお役に立てるか」というテーマを課していました。そうして勝ったり負けたりを繰り返しながら、ある時ふと気付くことがあったのです。
「あれ。お客さんファーストの発想ではじめたプロジェクトって、勝率よくないか?」と。
それ以来、私はお客様の頭の中を知る方法、すなわち「様々なマーケティングリサーチ」にのめりこんでいきました。「お客様の頭の中」を知って、自社の強みを活かしながら競合他社ができない、お客さんに寄り添った施策を出せば出すほど勝てる。
これをマーケティング的な言葉で「バリュープロポジション」と言います。日本の会社内では「提供価値」と言われることの方が多いかもしれません。言葉よりも図で御覧頂く方が理解しやすいと思いますので、こちらをどうぞ↓
このミントグリーンの部分の「バリュープロポジション(提供価値)」をつくることが勝率を高めます。
もちろんお仕事や立場によって、「勝つこと」の定義は異なります。たとえば、
店舗開発ご担当が社内をうまく説得して、
ディベロッパーから狙った区画の契約を勝ち取った時
公募型プロポーザル型のコンペで、並み居るライバル社を蹴落として選定された時
地方の名士だけどクセの強いオーナーから気に入られてうまく契約まで漕ぎつけた時
などなど。
様々な形の「勝ち」があります。
ただ、この「バリュープロポジション(提供価値)」という考え方は、「様々な勝ち」に対応できることも経験上分かっています。もちろんこの世に<万能薬>などないのですが、かなりの確率で効くクスリということです。
このクスリの使い方には注意が必要
今回ご紹介している「バリュープロポジション(提供価値)」というおクスリを使って体を壊すことはありませんが、正しく使わないと最適な効果は得られません。
そこで、正しい使い方をお伝えしたいと思います。
「バリュープロポジション(提供価値)」という考え方に基づいてプロジェクトを進める際は、「バリュープロポジションを作るための優先順位」がとても重要です。
具体的には以下の順序で考えるようにしてください。
- 最初に、あなたにとってのお客様が望んでいる価値を考えます
(⇒ここが重要で、徹底した顧客ファーストにあたる部分を最初にです) - 次に、自社が提供できる価値を考えます
(⇒自社の提供価値が順位的な最優先ではないという点に注意です) - 最後に、競合他社が提供できない価値を考えます
(⇒競合会社の頭の中をよく知ることも重要ですね)
バリュープロポジションつくりの優先順位を誤ってしまうと、「よくありがちな企業の言う、お題目としての顧客視点」に成り下がってしまうので、ココだけは本当に注意してください!
よくありがちな失敗パターンとしては、<①②③の正しいフロー>ではなく、<②①③の誤ったフロー>で考えてしまっているのに、「ちゃんと顧客視点も入れたし!」と満足してしまうことです。
はい、これは負ける確率が高いです。
かつて、故野村克也監督が、「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」と仰っていましたが、負ける時は負けるべくして負けているのです。
顧客視点ファーストを実現して、お客様のアタマの中を知る方法
「ここまではわかったよ。じゃあ勝率を高めるために、具体的に顧客視点ファーストを実現して、お客様のアタマの中を知る方法を教えてくれよ」と思われた貴方。
ありがとうございます。そうですよね。
ただ、今回はここでお時間が来てしまいました。残念です。
ここから先は、次回以降をお楽しみに!