戦後から続く博多商人たちの結束

都心界とはどのような組織なのでしょうか?

歴史は古く、戦後にさかのぼります。福岡大空襲で焼け野原になった天神地区では、1946年に新天町商店街が開業しました。そして、終戦から3年後の1948年、周辺商店街や百貨店などが結束して、 “都心連盟”という組織ができました。

1955年頃の新天町商店街

団体名の“都心”にはどんな意味が込められているのでしょうか。

「天神一帯を必ずや都心にしよう!」という強い願いを込めたそうです。
その数年後、都心連盟は“都心界”と名前を変えましたが、現在でも親睦団体として活動が続いており、岩田屋や三越、ミーナ、パルコなど、天神にある12の大型商業施設・店舗が加盟しています。

都心“会”ではなく都心“界”なんですね。

ええ。なぜかというと、「界隈」を重視しているからなんです。お互い商売敵ではあるけれど、まずは天神にお客さんを呼び込まないことには商売が成り立たない。そのためには、天神という街が良い街にならないといけないよね、という共通認識が根底にあります。この感覚は天神ならではの大きな特徴ですね。

共通の販促活動をすることもあるとか。

はい。加盟施設が共同で夏のバーゲンセールのPRを開催したり、商業施設の垣根を越えてエリア全体を盛り上げるような施策を行ったりしています。

天神流通戦争が街におよぼした影響

福岡・天神への一極集中。

そうですね。1970年代に入って高速道路や鉄道など交通インフラが急速に整備されると共に、ダイエーや博多大丸など大型商業施設の開業が相次ぎました。九州一の繁華街へ急成長するのと同時に、それゆえの問題もでてきて…。
例えば、放置自転車があふれる道、激しい交通渋滞、落書き、ガムやゴミのポイ捨てなどです。
「土日の天神には近づきたくない」なんてネガティブな声まで聞こえるようになりました。

2000年代前半の放置自転車や道路渋滞の様子。特に、違法駐輪の数は全国ワースト1位だった。

このままではいけないと危機意識をもった行政や企業、住民が一体となり、2004年から天神発展会が主体となって始めたのが「天神ピクニック」という取り組みです。

具体的にどんなことをされたのですか?

“「憩いと魅力」を持った道路文化の創造“をコンセプトに掲げて、歩道では自転車から降りて歩くよう促す”押しチャリ推奨区間“を設定したり、道路を歩行者天国にしてオープンカフェやフリーマーケットを数日間限定で開催しました。

(左)大通りや公園で開催したオープンカフェ。(右)押しチャリの推奨で歩行者に優しい歩道になった。

市民の反応はどうでした?

すごく良かったですね。想定外だったのは、これによって周辺の商業施設も売り上げも上がりました。そこから、「こういう取り組みが続くといいよね」と気運が盛り上がり、WLTの発足に至っています。
WLTの理念は当時から変わっていません。ひとつめは、自分たちの町は自分たちでつくろう、ということ。ふたつめは、エリア全体で集客することで経済活性化をはかろうということです。

お話を伺ったWe Love天神協議会 荒牧正道様(取材当時)

17年かけ恒常的な施策に!都心部の交通渋滞緩和に寄与を解消

道路渋滞の解消にもかなり注力されたそうですね。

ええ。車の乗り入れを制御するために、“フリンジパーキング”という仕組みを導入しました。フリンジとは周辺という意味です。つまり、天神都心部から少し離れた徒歩20分くらいの場所にマイカーを駐車してもらい、そこからバスや地下鉄で天神までアクセスしてもらいます。

でも何か特典がないと、わざわざ離れた場所に駐車してくれないのでは?

そのために、指定のフリンジパーキングに駐車してくれた方には、上限12時間最大500円となるサービスする上、お帰りの天神から駐車場最寄りの公共交通機関の代金が無料になるチケットを渡しています。利用者は右肩上がりで、月間約4,500台も利用されているんですよ。

バスや地下鉄の事業者側も、乗客数が増えるメリットがありますね。

そうですね。さらにバス事業者からすれば、都心部に乗り入れる車が減れば、渋滞が減って遅延もなくなるから良いことづくしかなと。
2021年から恒常化しましたが、開始当時の2004年は2日間だけの実施、そこから徐々に年末年始やゴールデンウイークなど実施日数を増やして、17年かけてやっと通年実施にこぎつけました。
フリンジパーキングを使った来街者は、天神エリアでの滞在時間が長くなる傾向があると証明されたのも恒常化の決め手だったかもしれません。

長く滞在してくれれば、経済効果にもつながりますね。

はい。商業施設の無料駐車場は、上限2~3時間が普通ですよね。それだと、急いで用事を済ませて、すぐ家に帰ってしまう。でも、フリンジパーキングは上限12時間なので、本来の目的が終わってからも、街をぶらついたり、喫茶店でお茶したりする時間的な余裕が生まれる。そういう行動変容がアンケートから明らかになったのです。

でも、フリンジパーキングが浸透するまで時間が掛かったのでは?

拙速に結果を求めないことがポイントですね。続けるのは簡単ではありませんが、逃げずに少しずつ取り組むのが大事だと痛感しました。


焼け野原から始まり、わずか20年あまりで九州一の繁華街へと急成長した天神。それゆえに起こった交通問題も、歳月をかけて取り組むことで解決してきました。後編では、100年に一度といわれる大規模再開発の中、WLTが掲げる新しい天神の”8つの目標像”についてお話を伺います。

今回、取材に応じていただいた企業様

We Love 天神協議会事務局

We Love 天神協議会事務局

本社所在地
福岡県福岡市中央区天神1-15-5 天神明治通りビル1F
設立
平成18年4月
趣意
福岡天神エリアの企業、団体、住民、行政など多様な活動主体で構成するエリアマネジメント団体。
安全安心で快適な環境の形成、地区の価値集客力の向上、地方経済の活性化、及び生活文化の創造などを目的として“まちづくり”を推進。
Webサイト
https://welovetenjin.com/