持続可能な書店の経営モデルを確立

あらためて完全無人書店「ほんたす ためいけ」をオープンした経緯から教えてください。

人件費をはじめとしたコスト高騰や人手不足を背景に、閉店に追い込まれる書店が全国で増えており、20年前に比べ書店は半減しています。出版取次業を祖業とする我々としては、市場の縮小は重大な危機です。そこで、書店経営のコスト削減と売上アップを実現できるようなソリューションの確立を目指して、完全無人書店「ほんたす ためいけ メトロピア溜池山王店」を東京都港区にある東京メトロ溜池山王駅構内にオープンすることになりました。

オープンから2年経ちましたが、運営状況はいかがですか。

当初の売上目標こそ未達ですが、15坪のエキナカ書店としては黒字運営できていますし、何より、無人営業する上で一番懸念していた商品ロス・店内トラブルがゼロで、セキュリティ面とオペレーション面がクリアできたことは大きな成果でした。

無人営業のノウハウをかなり蓄積することができたのでは?

はい。「ほんたす ためいけ」で培った無人営業を活かし、有人・無人でのハイブリッド型営業を実現する店舗も展開し、店舗運営の省力化を図るノウハウも蓄積できています。現在では、このノウハウ(省力化運営の仕組み)を既存の書店様に導入していく取り組みに注力しています。
その一つとしてご紹介したいのが「あゆみBOOKS杉並店」です。いわゆる、地域に密着した街の書店ですが、長らく赤字が続いていました。
そこで、2024年9月に、有人×無人のハイブリッド型書店「あゆみBOOKS杉並店 supported by ほんたす」として、日販直営でリニューアルオープンしました。
当店は店舗運営省力化ソリューション「ほんたす」の導入1号店目となります。既存書店への導入モデル店舗として、無人運営による➀営業時間の延長、フルセルフレジ化による➁有人営業時間の省人化(ワンオペ化)の検証を行いました。

10時から22時まではこれまで通り有人営業をして、早朝8時~10時と深夜22時~24時までは無人営業をしています。これにより、人件費をかけずに1日で合計4時間、営業時間を延長することが可能になりました。

あゆみBOOKS杉並店 supported by ほんたす

店員がいないとセキュリティ面がかなり不安ですが。

無人の時間帯はLINEの会員証を入口でかざして入店するので、誰がいつ入店したかリアルタイムで把握することができます。店内の様子は、防犯カメラで常に監視していますし、何かあればセルフレジまたはお客様のスマートフォンを通してビデオ通話で遠隔のサポートセンターと画面越しに話すことができます。
これらの仕組みによってセキュリティを維持することができています。

営業時間の延長だけで売上アップできたのでしょうか。

いいえ、それだけでは赤字の解消はできませんでした。
そこで、有人レジをセルフレジに入れ替えてレジ要員をなくし、スタッフが売り場づくりと接客だけに注力するオペレーションに変更しました。すると、常時2.5人体制だった有人時間帯のスタッフを1人体制にしても運営可能となり、人件費は50%以上削減することができました。結果、営業時間延長による売上増加と、有人時間帯の省人化によるコスト削減の両輪があって黒字化することができました。

こちらの店舗に行ってみたところ、「ほんたす ためいけ」のレジと仕様が違ったのですが、何か理由があるのでしょうか。

この店舗では株式会社TOUCH TO GO(タッチ・トゥ・ゴー)(以下TTG)のレジを採用しました。自動精算機能が付いているので、営業終了後にスタッフがレジ締めをする必要がないのです。
ほんたす ためいけのレジはレジ締め作業をする必要がある仕様なので、それをなくすためにTTGのレジを導入しました。

では、今後もTTGのレジを導入していく?

はい。今後は書店様のほか小売店様も含めて“省力化ソリューション”をご提供していくため、お取引様のご要望に応じて選べるようTTGのレジを含む複数のレジシステムから最適なものをご提案します。

実証実験を通して細かな改善を重ねているんですね。

現在、「ほんたす ためいけ」と「あゆみBOOKS杉並店」以外に、大型のTSUTAYAでも実証実験を続けており、店の特性に合わせた最適な省力化ソリューションを提供できるノウハウが蓄積されてきました。
機器が揃えば無人店舗はできますが、重要なのは、それらを駆使していかに収益を生むオペレーションを構築するか、そのサポートまでできるのが我々の最大の強みです。

確かに、技術進化によって省力化を目的とした商品は巷に増えています。

入店システムや防犯カメラ、セルフレジ、接客ロボットなど、無人営業をするための商品が世の中に増えている中で、自店に最適なサービスを選び、各社と契約をしていくことは労力を必要とする作業です。そこで、我々が各システムベンダーと書店の間に入ってニーズに合わせて、システム選定や窓口対応、省力化(無人化)のオペレーション構築などをお手伝いすることができればと考えています。今後はそういうコンサルのような立ち位置でもサービスを提供できればと思っています。

目指すのは無人化ではなくて、それによって経営改善し持続可能な書店を増やすことですものね。

そうです。我々は無人書店を増やしたいわけではなく、あくまでも書店経営の省力化を実現したいのです。省力化につながるノウハウを提供することによって、経営改善や売上アップを実現させ、閉店する書店を減らし、持続可能な書店を増やしたいと思っています。

この仕組みは書店以外の小売店にも展開できそうですね。

はい。今後は省力化ソリューションをパッケージ化して、あらゆる小売業に提供できるような事業に拡大していきたいと思っています。
正直、単に店を無人化するだけならそこまで難しくないはないのですが、大変なのは様々なベンダーから見積もりを取って比較したり、契約書を交わして毎月請求の対応をしたりと、複数社とやり取りをすることです。それを弊社で一本化して提供できれば、小売店様の負担が軽減されるはずだと考えています。
ファイナンス面のアドバイスや商流のノウハウ、運営後の遠隔サポートなど一括して提供し、導入前から導入後まで一貫してサポートできるのは我々ならではの強みです。

特に、無人営業時間帯の遠隔サポートがあるのは店側も安心感があると思います。

お客様も無人営業だと理解して来店してくださっているので、そこまで大量の問い合わせが来るわけではないのですが、“何かあった時にフォローしてくれる”という点がこれまで導入した店舗様から大きな評価を頂いています。

今まで何店舗がこのパッケージを導入しているのですか?

徐々に増えていて、関東中心に計8店舗に導入しています。(※2025年12月時点 直営店除く)
現在は、ロードサイドにあるTSUTAYAの大型店を中心に、早朝と深夜を無人営業にすることで24時間営業化を進めています。人件費を増やさずに営業時間を延長できるとあって、店舗にも大きなメリットがあります。

24時間営業化で売上10%アップ

実際、営業時間延長で売上は増えましたか?

はい。おかげさまで、例えば、前述の「あゆみBOOKS杉並店」では10時~22時だった営業時間を4時間延長することによって、毎月の売上が平均6%増えました。さらに、セルフレジ導入で有人時間帯の人件費を半分カットできたことで粗利がかなり増え、利益改善が進みました。
2025年11月からは更に延長して24時間営業に変えたところ、10%近くまで月間の売上が伸びました。
延長した時間分、売上が積みあがるだけでなく、24時間営業が呼び水になって有人時間帯の売上も伸びたのは想定外でした。

「あゆみBOOKS杉並店 supported by ほんたす」の売上推移

お客さんにとって、24時間営業は高価値だと捉えられているんですね。

そうですね。実際は深夜帯に劇的に売上が伸びるわけではありませんし、光熱費もかかるのですが、24時間営業を分かりやすく打ち出すことで宣伝効果が上がり、新規客の呼び込みに繋がることが分かっています。

店舗側の反応はいかがですか?

「あゆみBOOKS杉並店」の場合だと、一番響いたのは、月間の総労働時間が約430時間も減らせたことです。レジに立つ時間がなくなる分、人件費が大幅に下がった事を成果と感じています。
取引先書店様の売上アップの事例ですと、例えば、「TSUTAYA流山店」は無人営業を取り入れて6時間延長したところ4%売上アップしました。人件費を増やさず売上を伸ばしたこと、無人運営が問題なく回ることに大きな手ごたえを感じていただいております。次に導入した「TSUTAYA二十世紀が丘店」は、お客様へメリットがより伝わりやすい「24時間営業」に挑戦しました。過去の導入店から学び、導入の一か月前にお客様へのご案内を開始し、告知期間を長く取るといった改善をした結果、さらに売上が伸ばすことができ、店舗様からも価値を感じていただいております。

(左)TSUTAYA東所沢駅前店(右)TSUTAYA小山城南店では、無人時間帯の入店に顔認証システムを採用。LINE会員証よりも心理的な入店ハードルが下がる。来店ハードルや導入コストを優先するなら顔認証を、より高いセキュリティや販促効果を優先するならLINE認証など店舗側が何を優先したいかによって選べる。

商圏が2倍に拡大

書店はなんとなく営業時間が短いイメージがあるので、24時間営業というだけで目を引きますよね。

コロナ禍を通じて時短営業が定着してしまっただけで、昔のTSUTAYAはかなり遅い時間まで営業していましたよね。特に地方は24時間営業も珍しくありませんでした。興味深いのが、24時間営業にすると商圏が広がるのです。商圏5 kmと見ていたTSUTAYAが営業時間を延長すると10kmにまで広がる。車でわざわざ来店してくださる方が多いことがデータから分かりました。

それは予想外の収穫ですね。

ええ。近所の人が看板を見て来店してくださるのに対して、遠くから来店してくださる人はわざわざ営業時間を調べて来てくださるようです。

多少、来店に労力がかかっても、今すぐ手に入ることに価値を感じて来店してくれる方が多いんですね。

ほんたすを導入したすべての店舗で売上アップを達成した日販。“いつ行っても欲しいものがすぐに買える”ことが、現代の人々に予想以上に高価値だと捉えられているようです。後編では、“今すぐ手に入る”をキーワードに、様々な小売店への経営コンサルにも事業領域を拡大する今後の動きについても伺います。

今回、取材に応じていただいた企業様

日本出版販売株式会社

日本出版販売株式会社

本社所在地
東京都千代田区神田駿河台4丁目3番地
設立
1949年(昭和24年)9月10日
※2019年10月、持株会社体制への移行に伴い事業会社化
事業内容
1. 書籍、雑誌、教科書及び教材品の取次販売
2. 映像及び音声ソフトの製作、販売、ならびにこれに関する著作権の取得、賃貸
3. コンピュータ機器及びソフトウェアの販売、ならびに情報提供サービス
Webサイト
https://www.nippan.co.jp/