- テナント企業向け
調査・マーケティング ― マーケティングのヒミツキチ Vol. 6
ショッピングセンター業界が生まれ変わるために必要なこと
公開日:2025年5月9日

長曽 雅彦
株式会社コネクト 代表取締役

店舗開発を行う際の新しいSC判定基準
前回は「変化対応業」と言われるショッピングセンター業界について、「いま本当に変化に対応できているのか?」という話題で、「残念ながら、ちょっと停滞しているんじゃないの」というお話をしました。
ショッピングセンター(以降SC)の変化対応が停滞することは、テナント企業や店舗開発担当の皆さんにも影響を及ぼします。
ここで少し、ここ数年のSC業界動向を見てみましょう。
2024年度末時点の全国SC総数は3,092施設(前年末比-28施設)で6年連続の減少となっており、今後も地方の小規模SCや老朽化SCなどを中心に減少トレンドが予想されています。
SCの年間売上高は2019年比96%とコロナ禍前の状況から回復基調にあるものの、これは業界平均値であり、個別SC間での業績格差は拡大しています。これを坪効率で見ると、以下のように「高坪効率グループ(前年比プラス)」と「低坪効率グループ(前年比マイナス)」の二極化が進行しています。
【高坪効率グループ(前年比プラス)】
・都市部の好立地SCや駅前・駅直結型SC
・リニューアル投資を積極的に実施したSC
・体験型コンテンツを充実させたSC
・インバウンド需要を取り込める立地のSC
・食品スーパーなど生活必需品を核とした近隣型SC
【低坪効率グループ(前年比マイナス)】
・郊外立地で差別化要素の少ないSC
・老朽化が進み大規模投資が必要なSC
・核テナントが撤退・縮小したSC
・競合出店により商圏内シェアが低下したSC
ただ、店舗開発御担当が実際にショッピングセンターへの出店を検討する中では、候補SC全体の売上や坪効率、成長性などよりも、「候補店舗区画前のターゲット客層流量の方が断然大切だよ」という方も多くいらっしゃいます。もちろん同じSCの中の通路でも店舗の位置によってお客様の流量や目立ち度が大きく異なりますので、「店舗前にターゲットとなるお客様がどれくらい歩いているのか」は最も気になる点であることに異論はありません。ただ、中長期的な視点では、上記のようなSC全体の業績傾向(高坪効率グループなのか)という点も評価上のポイントとなってくると思います。ここを見逃してしまうと、時間の経過と共に、継続的な店舗の成長を望みにくい状況となってしまいます。
また、今後はお客様のニーズがより多様化していく中で、「進化してお客様から選ばれるSC」と「それ以外」に分かれていくことが予想されます。ショッピングセンター単体でモノを売る場から、様々なサービスや交流、コミュニティ・公共機関・専門性の高い店舗や体験などとのハイブリッド化が進んでいくことが予想されます。こうした点を踏まえると、現在のSC業界の状況は「量的拡大」から「質的向上」への転換期にあると言えます。単にSC業界がシュリンクしているのではなく、業界構造の進化に向けた構造調整期と捉えるべきです。
店舗開発御担当の皆さんにおかれましては、SC業界がこのような転換期・過渡期にあることをより意識いただき、店舗開発を行う際のSC判定基準に、「このSCは質的に進化していけるSCなのか?」という点を加えて頂ければと思います。
「ディベロッパーが主張する全体最適」と「テナントが主張する部分最適」どちらを優先すべきか
私は普段、「ディベロッパー/オペレーター」と「テナント/開発御担当」両方のお立場の方々に対して、マーケティングや調査などでお付き合いをさせて頂いております。また、どちらの立場でも働いたことがあるので、それぞれの立場の方々がどのようなことを考えてお仕事をされているのかをある程度は分かります。
「ディベロッパー/オペレーター」はSC全体の効率や成果を最大化するために、どちらかというと長期的な視点で持続可能性を重視します。これは”SCの父”ビクター・グルーエンが提唱した基本理念の中核に、以下のような相互扶助の思想があったことに起因しています。
・テナント間の「計画的相互依存」の重要性
・異なる店舗が「補完的関係」を持つべきこと
・小売業者が「共通の利益」のために協力する必要性
彼の考えでは、「ショッピングセンターは単なる店舗の集合体ではなく、各テナントが互いに支え合い、全体として一つの有機的なシステムとして機能すべきもの」とされていました。
こうして、「テナントの相互扶助的な関係を構築するのがSCなんだ!」というのが「ディベロッパー/オペレーター」の基本スタンスですので、自ずと「商業施設としての全体最適」を意識したものとなります。
一方で、「テナント/開発御担当」の考えていることはどうでしょう。出店するSC全体の集客力や販促力などを享受しながら、SCに協力すべきところは協力して、というスタンスは前提にあると思います。ただあくまでも自店売上/利益が最重要事項であり、短期的な成果や局所的な効率性も上げていかなければなりません。これは、「ディベロッパー/オペレーター」側から見ると、「部分最適」的に感じられる部分ではあります。
ビジネスのセオリーでは「部分最適が全体最適を阻害するケースが多い」ことが指摘されるケースが多く、「部分最適は短期的には特定部門の成果向上に見えても、長期的・全体的には組織の競争力や持続可能性を損なう可能性があります。効果的な経営を行う上では、部分最適を超えて全体最適を実現するための部門間連携、情報共有、共通目標設定が重要となります」などと言われることが多いと思います。
でも、これって、いまのショッピングセンター経営に当てはまるのでしょうか?
私にはそう思えないのです。
ディベロッパーとテナントが抱えている「ギャップ」がSCの進化を妨げている
ショッピングセンターという業態は、あまりにも短期間で幅広く成功した業態のため、その基本思想がいまも頑なに守られていると感じています。しかしながら現在では、より消費者のニーズに寄り添えているECにシェアを奪われ続けており、SCは「リアル商業施設としての質的向上」を迫られています。

今後SC業界が質的向上を行っていく上でカギとなるのは、「テナント側からどんどん要望を挙げて実現させていくこと」だと思っています。SC開発者や運営者の目からは「ちょっと部分最適的」と見えるかもしれませんが、お客様の視点に近いのはやはりテナント側です。
今はディベロッパーの思惑と、テナントの思惑に”ズレ”が多い結果、ショッピングセンターの進化が妨げられているケースを多く見かけます。ショッピングセンター業界とテナント各社が、今後のリアルショッピングの世界で発展していくためには、ディベロッパーとテナントがそれぞれの「思惑のずれ」を認識して、対話を通じて共通の利益を見出していくことが不可欠です。
特に重要なのは、「どちらか一方が勝って、もう一方が負けてしまう」ゼロサムの関係ではなく、「協力することで双方がより大きな成功を収める」プラスサムの関係構築です。
ディベロッパーとテナント/店舗開発者は、同じ商業施設という土俵で協働しながらも、それぞれが異なる立場と目標を持っています。両者の間には様々な認識のズレが存在し、それが時として摩擦や非効率を生み出します。これらのギャップを理解することは、より生産的な関係構築と双方にとって成功するSC運営につながります。
では、ディベロッパーとテナント抱えている「ギャップ」はどのあたりにあるのか。
テナント・店舗開発担当としてディベロッパー/運営者に働きかけていきたいポイントは。
こうした点についてお話ししたいのですが、紙幅が尽きてしまいました。
それはまた次回にて。