賃貸住宅と貸店舗の賃料表示の根本的な違い

不動産広告における賃料表示は、その対象が「住宅用不動産」か「事業用不動産」かによって、ルールや考え方が異なります。この違いの根底には、消費者(借り手)保護の度合いが挙げられます。

項目 住宅用不動産(居住用) 事業用不動産(店舗・事務所・倉庫など)
対象者 一般消費者 法人・個人事業主
表示の目的 消費者保護、誤認防止 契約者の判断材料提示
賃料表示の単位 「月額」賃料 「月額」賃料(+「坪単価」を併記)

まず、住宅用・事業用問わず、不動産広告は宅建業法と景品表示法で規制されており、住宅用不動産に関しては業界団体の自主的なルールとして不動産の表示に関する公正競争規約(以下、表示規約)が適用されます。そして、住宅用不動産は、一般消費者を守るため、わかりやすく・誤解のない価格表示が義務付けられており、「月額」賃料と専有面積(㎡)の表示が求められます。一方、事業用不動産は、契約者の判断材料として、「月額」賃料または「月額」賃料に「坪単価」を併記します。

共益費・管理費や敷金・礼金などの表示はどうか

項目 住宅用不動産(居住用) 事業用不動産(店舗・事務所・倉庫など)
共益費・管理費等
の表示
賃料と合算表示が望ましい 賃料と別表示も可能
敷金・礼金等
の表示
具体的な金額を表示 月数表示または具体的な金額

①共益費・管理費等の表示

住宅用不動産は、総支払額の明確化や有利誤認回避の観点で、共益費・管理費は賃料と合算表示が望ましいです。別記載も可能ですが、その内訳が必要となります。一方、事業用不動産は、賃料と別表示でも問題はありません。

②敷金・礼金・保証金等の表示

住宅用不動産は、表示規約に基づき、敷金・礼金等を具体的な金額で示すことが義務付けられています。一方、事業用不動産は、敷金〇ヶ月といった月数表示か敷金300,000円など具体的な金額を表示します。

消費税の扱いについて

まず、住宅用不動産の賃料には消費税はかかりません(非課税)。一方で、事業用不動産の賃料には消費税(10%)がかかります(課税)。表示については、税込/税別表示ともに可能ですが、税別の場合は必ず「税別」等を明記する必要があります。

※土地の貸付(地代)は非課税

表記例(賃料500,000円の場合)

550,000円(税込)または 500,000円(税別)

賃料等を明示せず「応相談」や「未定」と表示してもよいか

店舗などの事業用不動産において、賃料や売買価格を「相談」「応相談」「要問い合わせ」などと明示せずに掲載することは、例外的に許容されます。住宅用不動産では、表示規約により「価格を表示しない広告」は禁止されており、一般消費者保護の観点から曖昧な表示は認められません。しかし、事業用不動産では、法人や事業者の誤解等が生じない表示をすることを原則としつつ、例外的に価格を明示せず『応相談』としても違法ではありません。
ただし、以下の点には注意が必要です。

✓ 誇大広告等の禁止:価格を伏せていても、内容が過大・誤解を与える場合は宅建業法違反となる可能性があります

✓ 不当表示の禁止:「相場より安く貸せるかも」など根拠のない誘引は景品表示法で禁止されています

また、広告掲載媒体によっては、「価格非表示NG」など独自の規約がある場合があるので、ルールを確認する必要があります。

まとめ

貸店舗など事業用不動産における賃料等の表示は、住宅用と比べて柔軟性が高いものの、宅建業法や景品表示法、表示規約の精神に則り、取引の明確性と誤解の防止に努める必要があります。特に「賃料の『応相談』表示が可能」である点は、事業用不動産特有の重要なポイントであり、実務においてはこれらの点を理解し、適切に対応することが求められます。