行政の支援の案内や、減額交渉。
次の入居テナントも冷静に考えて

コロナ禍で苦境となるテナント

長引くコロナ禍の影響は、多くのテナントの経営を厳しいものにしています。2020年9月7日での内閣府の景気動向指数に基づく景気判断は、12カ月連続で「悪化」しています。特に外出の自粛などに伴い、飲食店・物販などの内需は低迷しており、「人気のラーメン屋さんが店を閉めた」「大手の居酒屋さんが大量に店舗閉鎖を発表」「老舗の洋服店も低迷」と苦境に立たされています。固定支出となる家賃の支払いが厳しいという声は、マスコミ報道でも連日流されています。

(出所)内閣府 景気動向指数(令和2年9月分速報)

「早く払ってください」だけでは難しい社会情勢

こういうタイミングでは、通常時の賃料滞納督促のノウハウだけでは不動産会社も対応できません。賃料の振込みが遅れた事を確認して、「早く払ってください」と督促を入れても、なにしろ店舗の経営そのものが辛い。全世界でコロナと闘っているのですから、いつもと同じスタンスで追いかけていくような姿勢は社員のモチベーションも低下します。
いわば、災害の被災者に滞納督促に行くようなものと考えると、過度にビジネスライクに行うのではなく、寄り添う姿勢も必要でしょう。

では「減額交渉」が正義か

そうはいっても、テナント物件オーナーも大金持ちというわけではありません。テナントからの賃料が滞れば、経営破綻もありえます。オーナーのほとんどは、お金を借りて建物を建築してビジネスを行っています。賃料収入が大幅に減少すれば、借金が返済出来なくなる。単に、「賃料減額」や「支払い延期」などでしのいでも、オーナーも厳しくなる。経済というのは、このようにぐるぐると回っているので、「感染対策と経済活動の両立」というのは難しいのです。

行政の支援も案内してみる

今回は、世界的なパンデミックでもあり、国が「ステイホーム」を呼びかけています。すなわち国策として、飲食店・物販店舗に我慢してほしい、と言っています。そこで、行政も無策ではありません。
これまで、離職や廃業によって住宅を失うおそれが生じている人に支給してきた「住宅確保給付金」の支給要件が緩和されました。離職・廃業していなくとも、それと同程度まで収入が落ち込んだ人も対象に加え、実際の家賃額を原則3ヶ月間支給します。4~9月のこの制度の累計支給件数は10万件を超えています。この3ヶ月という上限は、市区町村ごとに定める生活保護制度の住宅扶助額によると、最長9ヶ月間まで延長が可能です。
こうした行政支援を紹介するのも、テナント物件を管理するプロパティマネジメントの仕事としては重要でしょう。なんとかテナントもオーナーも守らねばなりません。

困っている時ほど寄り添う姿勢

こんなとき、不動産会社としてなにか出来ることはないでしようか。不動産会社の中には、テナント店舗のお弁当を不動産会社が買ってみんなで食べる、オンライン飲み会用の惣菜を買う、空室の図面を貼っているスペースにテナントが始めたデリバリー弁当の案内を貼りだしているといった会社さんもいます。素敵ですね。
困っている店舗事業者に寄り添って、なにか不動産会社に出来ることはないだろうかと考える。埼玉県戸田市の平和建設株式会社では、コモンスペースでのお弁当販売のイベントも企画しています。困っている時に傘を取り上げるのではなく、傘を差し伸べる企業姿勢が大切だと思います。

事業転換も必要、時には経営アドバイスも

コロナは長期化しています(2021年2月現在)。となると、経営悪化が長引いている店舗もあります。例えば、オフィス街でランチや帰宅時を狙った定食を出していたお店。テレワークでそもそもオフィスに人が減っていますので、来店が難しい。となると、仮にコロナが終息してもテレワークが続けば、やはりこれまでの経営の維持は厳しいかもしれません。
であれば、賃料の相談をしつつも、「郊外への移転はどうだろうか」とか「宅配を中心にして厨房だけにしたらどうだろうか」という相談をしていくのも、賃貸管理としては必要かもしれません。WITHコロナの時代ですから、場所や業態を変え、ニューノーマルに転換するのも一つの手。もちろん、場所が変われば不動産業としてのアドバイスも変わります。

次のテナントも冷静に探して街を守る

一方で、オーナーも守らねばなりません。行政からの支援でなんとか息継ぎをしていたとしても、先行きが見えなくなれば、入居テナントはいずれ賃料が払えなくなるかもしれません。であれば、そんなテナントに寄り添いつつも、次の出店候補を探す必要もあるでしょう。「その場所があくなら、是非ともそこに店を出したい」という事業者もいるかもしれません。
例えば、今困っている定食屋さんが郊外に移転して成功した。その空いたオフィス街にカフェが進出して、テレワークも出来る場所として繁盛する。こうした新陳代謝も必要なのかもしれません。そう、テナントを守り、オーナーを守り、そして街を守る。この危機を乗り越えるためにも、テナントを担当する不動産会社はもっともっと汗をかいて社会に貢献していきましょう。