テナント課の専任化が難しければ、
売買仲介や管理受託などの部署に

テナントを学ばせるのも手です。

「テナント課」はあったらいいけど、当社にはないです

テナント物件は仲介も管理も難易度が高いものです。「ラーメン屋さんを始めたい」という起業家の物件探しを手伝うとかと思うと、「有名なコーヒーショップが出店したい」という大手ナショナルチェーン店の店舗開発のプロと丁々発止でやり取りが必要かもしれません。あるいは、「一階の飲食店が撤退するそうで」と退去予告が入っても、「これは額の大きな仲介だ」と喜ぶ話かと思うと「どうやって募集しようか」と途方に暮れることもあります。

それなりに、テナントに特化した知識と経験が必要になりそうですが、「わざわざ専任をおくのは・・・」と逡巡することもあるでしょう。

事実、取材をすると「3年前は専任を置いていたけど、そのベテラン社員が定年退職して部署が無くなった」「部署を作ったけど、赤字でね」「どこかの店舗に集約するのは難しくてね」と悩んでいるのが実情です。

なかなか「テナント課」を専任で置けない

不動産会社をスタートさせるときは、大抵は、一人親方。自ら売買仲介もすれば賃貸仲介もするし、管理も行い、時には大家業や建築土地活用も行っていたかもしれません。やがて売上も増え、社員や仲間も増えてくると、「売買仲介」「賃貸仲介」「管理」などそれぞれの担当を決めて、分業化していきます。

ここで悩ましいのが「学生だけに特化した学生課」「法人だけに特化した法人課」「管理受託だけに特化した資産活用課」といった、さらなる専任部門の設立です。そこだけを極めれば、きっともっと売上が上がり、ノウハウは深まるはずです。それは分かっているものの、「そこまで人数がいない」「そこまで任せられる人材がいない」「部署を持つほど売上がない」といった理由で踏み込めない会社は多く「大手さんはいいですよね」となってしまうのが通常です。テナント課もそうした部署のひとつです。

売買仲介と賃貸仲介は商談単価の違い...テナントは?

不動産会社を初めて最初に分けるのは、おそらく、売買と賃貸です。実際に業界トップクラスの賃貸仲介会社であるエイブルやミニミニは、「賃貸に集中」することで拡大に成功しています。売買仲介は一度の商談単価が高く、意志決定に時間がかかるもの。月に1-2件売買仲介を決めれば、結構な仲介手数料となるため、単価の低い賃貸仲介はどうしても仕事の優先順位が下がります。

また、進学や転勤など転居時期が明確な賃貸では、内見してすぐ借りる部屋を決めることも多いものです。一方で、「人生で一番高い買い物」となる物件購入希望者に対しては、地道に追客し折衝を続けることになります。ですから、まず「売買仲介と賃貸仲介」を分けるのではないでしょうか。

実はここにヒントがあります。テナント仲介は、「単価が高く」「意志決定は長く」なります。実は「居住用の賃貸仲介とは対極に位置」しています。

仲介と管理は肉食系と草食系ほど違う...テナントは?

さて、「賃貸事業部」を売買とは切り離して仕事を進めると、次に「管理と仲介」の「働き方」の違いに気づきます。部屋を探しているお客様にいかに決めて頂くかという賃貸仲介は、活動的でありアグレッシブです。狩猟的であるともいえます。単価の高い売買仲介よりも、沢山の件数をこなすこともあり、行動量も多くなります。対象顧客は常に初対面となります。

一方、管理は、クレーム対応に代表されるように、「縁の下の力持ち」的な仕事ぶりでもあります。原状回復などの手配や、滞納督促、あるいは巡回やオーナーとの折衝などは、ちょっと地味に感じるかもしれません。入居者やオーナーといった「長い付き合い」のある関係性を大切に育てていくようなところがあり、あたかも作物に水を欠かさず育てるような、農耕的な仕事です。

では、テナントはどうでしょうか? さあ、駅前のラーメン屋さん跡に、どこの飲食店に入ってもらおうか。実は、テナント出店キーマンとの「長年のやり取りや人脈」なども大事になります。そこにお好み焼き屋さんが入れば、「臭いが近隣からクレームが」とか「煙を改善する設備を」などと居住用の管理担当者と同じく、「長い付き合いや関係性」も大切になります。

法人・学生という属性による違い...テナントは?

店舗数が増えてくると、「中央店と本店と駅前店が高い売上」というような店舗単位での業績に明らかな差が出てきます。こうしたケースで私が気にしているのは、「中央店と本店と駅前店は転勤のお客様も多く、法人や社宅代行でラッキーな契約が多いのではないか」ということ。そこで、多店舗展開を始めると、「学生課」「法人課」などを作って、「受験日に合格前予約をしよう」「社宅代行会社に折衝して、高級車で出迎えよう」などいった活動に集中することを進めるケースもあります。すると、「学生課」「法人課」に売上がうつり、これまでの売上トップ店舗が、一般客をかなり逃していた事が判明し、さらに全体で業績が上がることがあります。

ここにもヒントがあります。各店舗にテナント仲介を任せると、「前年実績数字としてテナント仲介の売上数字のブレが激しい」という目標設定や評価の問題が起るだけでなく、「本当なら、テナント課に集中していれば、伸びたテナント売上」や「テナント入退去に振り回されておざなりになっていた店舗側の数字のアップ」も見込めます。

ともあれ、「学生課も法人課もテナント課も設置は無理。やれるのは、みな中央店の店長になっちゃうんだよ、うちの会社では。人材の数も質も大手のようには出来ないよ」ということはよくあるものです。

少人数な会社では、ベテランを起用する

そこで、小さな会社にお勧めなのは「ベテランひとり」を、法人も学生もテナントも「スペシャリスト」としてバリバリ営業してもらう、という手法です。

ここまで述べたように「売買仲介」「賃貸仲介」「管理」に比べると、「テナント」はちょっと変わった仕事ぶりが要求されます。経験と人脈も重要です。すると、これは、営業が得意なベテラン社員に任せてはどうでしょう。実は、売買仲介に働き方は似てくるのでしょう。店長として部下の育成には、ちょっと向かなくても「売れるんだよな、あいつ」という方に「売買仲介以外のキャリア」として用意してあげる。なにしろ売買仲介は独立志向も高くなりますが、テナント、あるいは管理受託や法人開拓などは、かなり特命ミッションに近いと思います。

「プロジェクトチーム」や「横断チーム」をつくるのも

あるいは、「そんな特筆したスペシャリストはいない」という会社もあります。

もしくは、4店舗ぐらい展開していて、各エリアも離れているので、学生も法人もテナントも、それぞれの店舗に分散化している、という会社もあります。

こうした会社では、「テナントプロジェクト」とか「法人開拓委員会」とか「学生対策チーム」などと、毎月(あるいは毎週)、店舗横断のオンライン勉強会などをしてはどうでしょうか。特にテナントは複雑性が高いのですが「こんなラーメン屋さんがさあ」など、各店舗でのエピソードを共有するだけでも、効果が見込めます。

「テナント専任が正しい」とか、あるいは「各店舗でなんでもやるべきだ」といった議論は、実は、経営者の「好き嫌い」ぐらいでいいのです。むしろ、どうマーケットシェアを高め、入居を促進し、管理戸数を増やすか。会社の成長にあわせて、組織図も柔軟に変えながら、変化と進化に強い組織にしていきましょう。