退去前から新規入居者からのニーズを
水面下でお聞きする

残置物とはなにか

「残置物」とはなんでしょう。そもそも、物件の「設備」ではないので、オーナーのものではないという前提のものになります。従前の借主が取り付けて置いて行ったものを総称して「残置物」と呼びます。例えば、エアコンがついていなかった物件に入居者が自分で購入してエアコンを付けた。そして退去するときに「撤去するのに結構費用がかかる」と知り、あまり高価なエアコンでもなかったので「そのまま置いていった」といったケースです。

さて、このケースではエアコンは貸主のものでもありません。なので「修理の責任が貸主にはありません」。また「エアコン付き物件」と募集してもいけません。あくまで、ラッキーなことにタダでエアコンがついていただけであり、この住居の設備ではありません。とくに事業用では、飲食や物販などでかなり設備投資をしますから、「それがタダで使えるならラッキー」と思う入居者もいるかもしれません。しかし、これには大きな落とし穴があります。

壊れても修繕義務がないのが残置物

設備ではないので、貸主には所有権や快適に使えるようにする義務がありません。
しかるに、先ほどのエアコンのケースでは、重要事項説明書に、「現在室内に取り付けられているエアコンは、従前の借主が所有権を放棄したいわゆる残置物につき、その修理は借主が行うものとする。」等と記載すべきです。飲食店でも同様で、建物と一体で「貸し付けた物」ではないので、「壊そうとなにをしようと借主は自由ですが、その分、修繕義務は貸主側にはない」ということになります。
この「故障はあなたが直してね」は重要です。厨房機器などであれば、故障すれば営業が出来ないなど、大きな事業リスクとなります。ですから「必要な物はテナント側が用意してくださいね。こちらはスケルトンで渡しますから」が一般的です。契約時には、どれが設備で、どれが残置物かは重要なポイントなのです。

「いらない」と言われたら撤去義務は貸主に発生する

本来なら前の入居者の持ち物であり、私物です。ですから退去時に、従前の入居者に撤去を求めるのが普通です。基本は、退去時に、借主の負担でスケルトンにすべき、というものです。
しかし、仮に、オーナーも管理会社も「置いて行く」事を認めたとすれば、新入居者には、「これは契約対象外です。もしよかったらお使いください」ということになります。たしかに「最初から機材が揃っていてラッキー」と、同業さんなら思うかもしれません。
しかし、例えば「つけ麺屋にしたいからいらない」と言われたら、貸主負担で撤去しなければなりません、交渉がこじれて「管理会社負担で」などとなれば大事です。「デザインが気に入らない」「ちがうものに変えたい」というときに、「こちらが費用負担して撤去する」というのは、不安がつきまとう話です。
ここを教科書通りに考えると
「退去予告」→「すべて撤去してもらう」→「原状回復」→「募集」→「新規入居者がイチから設備を設置」→「事業スタート」となります。リスクはなくなりますが、エコでもないし、テナント物件の獲得のひとつの魅力である「すぐ事業が始められる設備有り」というメリットは失われます。

だからこそ「6ヶ月前告知」であり、「水面下での交渉」が重要

しかるに重要なのは、「水面下での交渉」なのです。退去予告は、テナント物件では、居住用よりもかなり早く、「6ヶ月前告知」などが普通です。
例えば、コロナ禍でラーメン屋さんの経営が厳しい。そこで店を閉めようと考えると、契約書には「6ヶ月前に連絡してください」などとある。頑張って半年か。こんなタイミングで、管理会社に連絡が入ります。管理会社としては、「6ヶ月後に新規入居可能物件」として募集を開始します。
このときは、まだ、ラーメン屋さんは事業継続していたり、社員やお客さんには店を閉めることは言ってなかったりするかもしれません。

むかし名刺交換したあの人は・・・

そこで、3年前商談したあの人にちょっと話をしてみよう。とか、先日「ラーメン屋さんをやってみたい」と尋ねてきた、あの青年に話してみよう、と水面下でやりとりをします。なにしろ、まだ営業しているかもしれませんから、実物を見てもよいでしょう。もちろん、「鍋もテーブルも椅子も全部もって退去する」のか「出来ることなら撤去費用払わなくて済むならこのまま置いて出たい」のかは、従前の入居者に意思確認をしたうえで。
そうすれば「これとこれとがあるなら、すぐ事業が始められるからほしい」とか「これもこれもいらない」など、入居したい側のニーズも確認が可能です。そして残置物が設備でないことを理解していただいた上で、新規入居の商談もスムーズに事が運ぶかもしれません。
もちろん、「同業」で「ほしいという新規入居者」が現れない場合は、「退去時の撤去を契約に基づいてお願いする」のですが。
このように居住用とは募集時の動き方も異なります。なによりも、人脈が大事です。そういった観点をテナント物件募集の際にはお持ちください。