- 不動産会社向け
特別インタビュー
株式会社不動産のデパートひろた(前編)
公開日:2022年10月21日
今回、上野氏が訪れたのは九州第二の都市、北九州市は小倉。工業都市として長らく発展し時代の流れと共に変化してきた街ですが、今年に入ってからは、九州最大級のアウトレットモール「ジ アウトレット北九州」の開業や、IT企業の進出など明るいニュースが続いています。
お話を伺うのは、創業46年の株式会社不動産のデパートひろた様(本社:北九州市八幡東区 社員数:160名)です。管理業をメインとしながら「不動産のデパート」という社名の通り、売買や店舗、資産活用など幅広いサービスをワンストップで提供できるのが強みです。
一昨年には店舗物件を専門に扱う部署を発足し、コロナ禍でも前年比3倍の売上を達成しました。なぜ今、テナント仲介に注力するのか?その理由や人材育成などについて代表取締役 廣田豊氏にお話を伺いました。
INDEX
店舗専門のテナント開発部を発足
先代から管理業をメインにされていた御社ですが、昔からテナント仲介もしていたんですか?
商店街にあるこぢんまりした個人店の仲介をやることはありましたが、今のようなテナント専門部隊はありませんでした。
この小倉は八幡製鉄所の発展から衰退まで共に歩んできた街ですよね。街が元気をなくす時期があったり、コロナもあってテナントの誘致は難しかったのでは?
確かに駅前エリアは厳しいと思います。でも、当社がテナント専門の部署を作ったのは、郊外にあるロードサイド型店舗の仲介に注力するためなんです。
商店街にある個人事業主のこぢんまりしたラーメン屋さんや小売店を仲介するのと、大手チェーンの店舗開発担当者を相手にロードサイドの用地を仲介するのは、仕事の難易度も収益性の高さも違いますから。既存の小規模テナントの対応に加えて、大規模事業用のテナント対応力を強化する目的です。
そうですね。前者なら住宅仲介をしながらできるかもしれないけど、後者は手数料単価が高い分、仕事の難易度も高い。
仕事って難しい程、儲かりますからね。でも、これが10年前だったらうちもやっていませんよ。やれるだけの社員も組織もなかったですから。
社員の戦力が揃ってきて、ようやく実現できたんですね。
はい。会社が大きくなると共に社員の平均年次が上がり、スキルの高い社員が増え、テナント事業に参入できる確信が持てたタイミングで専門部署を立ち上げました。
テナントを扱えるレベルの中堅社員がここ10年で育ってきたわけですね。
はい。経験を積んだ社員が増えてくると同時に、銀行出身の金融面に強い中途社員も入ってきて、店舗開発担当者ときちんとやり取りできる人材が揃ってきました。仲介のプロや売買経験者、金融出身者など、プロがいる当社だからこそ開発担当者の相談に乗れる。ですから、信頼感が他社と全然違うと思います。
でも、ここ数年はコロナがあって、テナントからの減額交渉対応で大変だったのでは?
そうですね。コロナの時は、テナントの助成金申請の案内から手続き、相談まで管理部が一括して対応しました。でも助成金のおかげで家賃滞納者がかなり減り、逆に助かった面も実はあるんですよ。
駅前からロードサイドへ 消費行動の変化
確かに人の流れが変わりましたよね。駅前からロードサイドの大型スーパーやファミレスにだんだん人が流れるようになって。
ええ。昔だったら家族で外食するとなれば駅前の飲食街に行っていたのが、今じゃ郊外の焼肉屋や回転寿司に行く方がメジャーになりましたよね。紐解いてみれば、20年以上前からイオンに象徴されるような郊外型大型店の時代が来る兆しは始まっていたと思います。
私は長野県出身で、昔は繁華街に行くのを「街へ行く」と言いましたが、今の若者は「イオンへ行く」って言うんですよね。つまり、車で郊外のショッピングモールに行って一日を費やす。人の流れが昔と真逆になりました。
そうですね。昔ながらの商店街の個人店は厳しいと思います。でも、これは不動産会社だけでどうこうできる問題ではなく、どちらかというと政治の話。逆に言えば、政治側が郊外型を推進した結果がこうなっているわけですよね。だから、今後も政治の方針に合わせた事業計画を立てる方がフォローの風に乗れるんじゃないでしょうか。
そうやって社会全体の構造が変わっているのにテナントを扱わないなんて、もったいないですよね。ずばり、小倉の街はこれからどうなるでしょうか?
悪くないんじゃないですか?最近、IT企業が進出したり(※)、実は徐々に良くはなっていると感じます。良くも悪くも街の変化は激しいですが 、県庁所在地でも苦戦している都市が少なくない中で 、北九州市は全国11位の経済規模。ポテンシャルのある街だと自負しています。北九州人は福岡と比べるから自信のない人が多いイメージですが、自分達がワクワクして仕事すれば、いくらでもチャンスがある町ですよ!
※日本IBMが、福岡県北九州市に2022年11月「IBM地域DXセンター」を新設すると発表。雇用創出や地域創生が期待される。参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000274.000046783.html
おお!そうですか!
ただ、自分も今の立場になって、このように入ってくる情報が増えましたが、小さな組織にいたら入ってこない情報も多いはず。そういう情報収集能力も含めて組織力が必要だと思います。
当社自体がもっと力をつけたり、アライアンスを高めたりしないと、テナント開発部をはじめとした大きなビジネスに絡む仕事を定量的にすることができません。
私もそう思います。それに時代によって次々変わるテナントのトレンドをキャッチするのは、不動産の面白さでもあると思います。
そうですね。不動産のプロになるためには良い情報が入ってこなきゃダメ、良い物件が買えませんから。テナント開発部でも良い物件を見つけるアンテナがあれば、テナント側に逆提案することだって可能になりますよね。
そのための一手としてテナント仲介網は広げておいた方が良い。うちのテナント開発部がもっと強くなれば、北九州の情報を一番把握している不動産会社というポジションを取れるはずです。
ちなみに、テナント開発部の売り上げが増えて、本業に相乗効果はありましたか?
ブランド力が上がったと思いますね。ひろたなら住宅仲介以外の事業もできるんだ、という認知が広がり、金融機関や会計事務所など他業界とアライアンスが組みやすくなりました。仲介のプロや売買経験者、金融出身者などのプロが揃う当社ならば色々な相談に乗ることができます。
テナントもそうで、北九州に店舗物件を探しにきた開発担当者が、どの業者に相談するか迷った時、必ず名前が上がるポジションになる。そうなるビジョンを確信していて、近々テナント開発部の増員を予定しています。
賃貸から売買まで扱える「不動産のプロ」を育成
社名が「不動産のデパート」なのに売買や店舗物件がないのはまずいですもんね(笑)。
元々、管理業だけではなくあらゆる不動産ソリューションを扱いたいと思っていました。とはいえ、全て同時には始められなかったので、まずは、管理業を主体にして、基盤を強化してきました。
管理業を強くする=管理戸数を増やすためには、オーナー満足度を上げなければなりません。そのためには、ひろたの店舗を増やそう、と。新卒社員は店舗に配属されて住宅仲介からスタートし、5~10年経つと売買案件を扱える高いスキルが徐々に身についていきます。
先方から見ても、パートナーとして頼りがいがありますね。一方、テナントや売買は扱わず、ずっと賃貸住宅だけやっていればいい、という経営者もいます。
それって経営理念に関係すると思うんですよ。賃貸住宅しかやらない会社というのは、「うちは管理会社だから、(賃貸住宅以外を扱う)必要がない」という意識があるんじゃないですか?
我々は「資産提案ができる会社になろう」というのが経営理念なんです。「不動産のデパート」という社名の通り、賃貸も売買もテナントも不動産のことなら全てやろう、と。
なるほど。社員としても入社して退職するまでずっと賃貸だけだと仕事の醍醐味が味わえず、結局、煮詰まって辞めてしまうんですよね。
ええ。中堅社員になり数百万円単位の大きな商談を扱えるようになれば、自社で物件を買い取って転貸する、なんていう大型案件を動かせて、それこそ不動産業が一生の仕事になりえる。会社と社員がWin-winの関係になれる体制を20年かけて作ってきて、いよいよテナント開発部の発足にこぎ着けたわけです。
この社屋を見てもわかりますが、御社は社員のキャリアや働く環境をすごく大事にしていますよね。社員に還元しない会社だってあるじゃないですか。社屋は小さくして、創業者だけ大きな家に住むみたいな(苦笑)。
会社にとっての一番の財産は社員です。なぜなら、物件はあくまでお客様の持ち物であって、それをいかに魅力的に提案するかのノウハウ、つまり社員の能力こそが当社の商品価値だから。
当社の経営理念の一文に「不動産のプロとして、地域と会社の発展と社員の幸福を実現する」とあるのですが、お客様はもちろん、社員の幸福も大事だと思っています。毎年30人採用して30人辞めるような会社じゃ、社員の能力が上がるはずありませんし、企業が永続的に30-50年単位で成長するには三方よしじゃないとサステナブルじゃない。一番は社員ですよ。
テナント専門部署を作っても上手く行かないケースもある中、御社がテナント課を立ち上げて前年比3倍まで売り上げを増やせたのは、それだけ能力のある人材がいたからという証ですよね。
そうですね。あれもこれも全部、常務が兼任してやるような会社ではダメ。実務はそれじゃ進みませんから。
あぁ、不動産会社あるあるですね。
より優秀な人材を採用し、年次に応じて成長させ、それに応じた待遇や環境を与える会社でしか、キャリア形成は実現できません。
難しい仕事ほど面白いし、当然キャリアが必要になる。
そして、仕事って難易度が高い程、儲かりますからね。
当社が全て開発型の事業にシフトするわけではありませんが、10年、20年キャリアを積んだ社員には、より高度でより良い仕事があるよ、と示してあげたい。管理や売買、テナントなど複数の柱を立てていくことで、本当の意味で「不動産のデパート」になっていくんだと思います。
むしろ北九州の街に特化した御社だからこそ、不動産のことは何でもできて、社員も集まってくるのでは?
そうですね。あくまで北九州の方々に向けて不動産ソリューションを提供することが当社のアイデンティティ。ですから、営業範囲は基本的に北九州近郊を対象にしています。
家族や友達がいる自分にとって馴染みのある場所って、生きてくのに必要じゃないですか。それが、全国を転勤させるような働き方では、いくら年収が上がっても本当の幸せとはいえないと思う。特に不動産業の場合、街のことを熟知した頃に転勤させられちゃうんじゃ醍醐味がないし、一生の仕事として続けてはいけませんよね?
賃貸仲介のプロではなく、北九州の不動産のプロである、というわけですね。
色々な考え方がありますが、自分が生活する地域に密着しながら地域と共に育っていくのが僕は好きだし、こういう思いに共感してくれる人達が入社してくれていると思う。ここのズレが少なければ離職率も下がりますしね。
今回、取材に応じていただいた企業様
株式会社 不動産のデパートひろた
- 創業
- 1976年(昭和51年)
- 本社所在地
- 福岡県北九州市八幡東区山王1丁目11番1号
- 事業内容
- 不動産流通業
- Webサイト
- https://corporate.re-hirota.co.jp/