- テナント企業向け
- 不動産会社向け
新しい不動産の使い手たち
独自の「福井方式」で県内の商業施設が協働 / 福井県共同店舗協同組合連合会
公開日:2025年8月1日
大手デベロッパーが全国にくまなく大型商業施設の出店攻勢をかけつづける中、福井県だけは2024年まで約20年にもわたって全国唯一の「イオンのない県」でした。なぜなら、地元の商業者が自ら商業施設を開発・運営する「福井方式」とよばれる独自の手法が50年以上も前から根付いていたからです。今回は、県内9つの商業施設を束ね、共通の課題解決や情報共有など様々な活動に取り組んでいる福井県共同店舗協同組合連合会(以下、連合会)様にお話をお伺いしました。
地元の商業者がSCを開発・運営する「福井方式」とは
連合会が発足した背景からお聞かせください。
まず、前提として「福井方式」という福井県ならではのショッピングセンター(以下、SC)の開発方式がおおもとになっています。
普通、商業施設は大手デベロッパーが開発・運営することがほとんどですが、福井県では、地元の商業者が主導して開発から運営までを手掛ける「福井方式」が主流となっています。
なぜ福井県だけでそのような手法が確立したのでしょうか。
大店法(大規模小売店舗法)が改正された50年以上前、福井のような地方都市からすると、都会の大手デベロッパーが攻めて来ることは大きな脅威だったのでしょう。そこで、「大手に進出される前に自分たちで商業施設をつくろう!」と団結して、県内各地で「福井方式」が広まったと聞いています。今考えれば、先進的な考えですよね。
ただ、イオンなどの大資本と比べると、圧倒的に資金や人材、情報量が劣るのは明らかです。そこで、県内のSCが集まって協同組合をつくり、連合会を発足させました。
とはいえ、どの施設もライバル同士ですよね。
それでも、どの施設も大手に対する危機感は同じで、「商売敵でも協働できる部分では協力しあおう」という共通認識があります。そこまで商圏がかぶらないこともあって、商業施設運営の課題や悩みを共有し、解決手段を話し合うような活動を数十年にわたって続けています。

施設運営の一番の課題は何でしょうか。
リーシングですね。どのSCも7~8人ほどしか事務局スタッフがいませんから、施設のメンテナンスや事務作業など一人何役もの仕事をこなさねばなりません。本当はリーシングに一番注力したくても、目の前の仕事に追われて手が回らないのが悩みのタネです。
それを1年間にわたって話し合った結果、連合会が中心になってリーシング事業に取り組むことを決め、昨年7月、リーシング事業部を発足させました。専任職員がいるわけではありませんが、補助金を活用しながらだんだんとリーシング活動に注力できるようになってきました。
具体的にどんなリーシング活動をされているんですか。
リーシングといってもナショナルチェーンを呼びこむのではなく、まずは地元で頑張っている事業者さんを積極的に誘致したいと考えています。そこで、金融機関や建築会社などから積極的にテナントを紹介してもらい、成約した場合、賃料の0.8か月分を手数料として支払う事業を始めました。実際に、昨年度は1件の誘致実績をつくることができました。
この前も、工事業者さん経由でカフェに出店を打診してもらったところ、めでたく、とあるSCのフードコートで成約にこぎつけました。このように関連業者さんに普段から声がけをしておくことで、ルートがつながって出店に繋がることは意外に多いですね。リーシングってタイミングですから、常にアンテナを張っておくのが重要だと痛感しています。
県内SCの空室一括検索サイトをオープン
他にはどんなリーシング活動をしていますか。
県内にある9つすべてのSCの空きテナントを一括検索できるHPを立ち上げました。

複数のSCの空室を一括検索できるサイトは初めて見ました。普通は空室情報を外に出したがらないですよね。
人口減少が進む中、福井に限らず苦戦する商業施設は少なくありません。大資本と戦うには小さいもの同士が集まって、知恵を尽くしながらやっていかなければなりません。
そもそも、地元の元気な事業者さんが減っているのも事実です。路面店で頑張っている地元のアパレル店にも声をかけたことがありますが、路面店で生き残っているところほどSCに入りたがらない傾向があり、難しさを感じています。
共同でリーシングをした場合、1つのテナントを複数のSCで取り合うことも起きるのでは?
それはあまりないですね。空きテナントがあること自体が悪という認識はどの施設も共通しています。まずは、どこかしら埋まれば良いではないかと。ゾーニングなどの問題で適した区画がなければ別のSCを紹介することもありますし、連合会全体でwin-winの関係を築ければ良いと思っています。

どちらも施設単体では到底できなかった取り組みですね。
そうですね。施設単体ではマンパワーが限られていますし、ナショナルチェーンに打診しようとしてもルートがありません。SC協議会に参加することでルート開拓してきましたが、各施設が単独でリーシングしていたら難しかったと思います。
開拓したルートや情報を惜しみなく勉強会で共有する、互助の精神が連合会にはありますね。
BCP対策を強化、非常時の協力体制を築く
連合会全体でBCPの強化にも取り組んでいるとか。
はい。一番のきっかけはコロナでした。あるSCの事務局内で集団感染が発生して機能停止になり、結果的にSCが休業せざるを得なくなったことがありました。その時に、連合会で人手を融通してスタッフを派遣できれば、休業しなくて済んだんじゃないかなという反省がありました。
その後も、能登半島地震で福井も多くの施設に被害が出ました。例えば、今後、嶺北地方で災害があっても、嶺南地方では被害がないことも十分考えられます。そういう時に、連合会の中で助け合える協定を結んでおけば、人数が少ない中でも協力して事業継続できるだろうと考えました。
複数の商業施設が連携して、BCPを策定するのはユニークですよね。
協同組合が連携した防災拠点をもつのは日本初だと聞いています。よく珍しいといわれますが、資源がない中で協力するのは普通だし「皆でやったらいいじゃないか」と思っています。
直営で書店を運営、ライトノベルの聖地に
少し話は変わりますが、直営で書店まで運営しているとか。
はい。元々、エルパには100坪くらいの大きい書店が入っていたんですが、いま全国的に書店経営は厳しいでしょう、ここも例外ではなく閉店になってしまいました。でも、施設に書店がないのは寂しいという声が大きく、直接運営を引き受ける形で再開することになったんです。

直営とはかなりの英断でしたね。
現在では、人気ライトノベル作品の舞台になったこともあり、ありがたいことに聖地として全国からファンの方が来店してくださっています。今では「日本一ライトノベルが売れる書店」とも言われているんですよ。
本屋のある未来を福井につくろうということで、「つながる本ギフト」という書籍のサブスクサービスもスタートさせています。
さまざまな課題に対して、柔軟な発想をもってこれからも取り組んでいきたいです。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。
今回、取材に応じていただいた企業様
福井県共同店舗協同組合連合会
- 所在地
- 福井県福井市大和田2丁目1212番地
- 設立
- 平成8年11月22日
- 事業内容
- 会員による商品券共同販売事業
会員間の研修および情報の提供・共有
共同リーシング事業 - Webサイト
- https://fukui-shoppingcenter.com/