店舗開発の視点から「日本の将来推計人口データ」を見てみると

店舗開発担当者の方々が業務として普通に行っている事のひとつに「エリアマーケティング」があると思います。出店想定エリアの人口構成や生活様式、インフラなどを分析して、その地域に最適化されたマーケティング戦略を展開する手法です。
一方、もう少し大きな視点で見るデータとして、「日本の将来推計人口データ」があります。こちらのデータは日本全体の将来人口規模や男女・年齢構成などを推計したもので、主に国の政策立案などに利用されることが多いです。今回はこの「日本の将来推計人口データ」を、店舗開発の視点から見てみたいと思います。

50年後の2075年には人口4,000万人が減少?

ご存知の通り、日本の人口は将来的に大幅に減少していくと予想されています。
こちらは50年後までの人口変化予測を表したグラフです。

国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」をもとに筆者作成

このデータによると、2051年から2064年の間には1億人割れが避けられないと予測されています。50年後の2075年を見ると4,000万人の人口減(顧客消失)ということになりますが、これは現在の「東京都+神奈川県+大阪府+愛知県」の人口に相当します。

ただ、この「日本の将来推計人口」を算出している[前提条件]には注意が必要です。

・「今後画期的な政策変更がない場合」を想定
・人口学的・統計学的手法に基づく客観的な推計

つまり、この推計は「何も手を打たなければ」ということをベースとして作成されたものであり、実際の政策変化によっては、上振れや下振れもあり得るということです。
個人的には、何も手を打たずに悲観的なシナリオに浸って諦めきるような生き方は、老人国家のようで好きではなく、より明るい未来をつくっていくことが重要だと思います。

いずれにしても、将来的な予想は把握しておきながら、実際の政策変化による上振れ・下振れリスクを常に考慮して、柔軟に対応していく必要があります。また当然ながら、地域によって人口増減傾向は異なりますので、エリアごとの状況に応じた店舗開発が求められることは言うまでもありません。

人口減が最も厳しい北海道夕張市で営業を継続する「ココカラファイン平和店」

今後の人口減少トレンドが予測通りに進むのか。はたまた画期的な政策変化によって逆転攻勢に転じるのか、非常に興味深いところです。
今日のコラムでは、店舗開発担当者にとって一番厳しい状況(極端な人口減少)の中でも店舗が生き残っていく術を、具体的な事例と共に見ていきたいと思います。

今の日本で最も人口減少のレベルが激しく、人口自体も少ないのは北海道の夕張市です。
夕張市の人口は2025年8月1日時点で5,974人です。ピーク時116,908人から95%減で、昨年同月からでも312人減少しています。65歳以上の高齢化率は53.8%で限界自治体基準の50%を超え、全国平均の29.1%を大幅に超過しています。

夕張市は石炭産業で栄えた歴史を持ちますが、炭鉱閉鎖などを経て人口は減少し続けており、その後のヤミ起債問題などもあり、深刻な財政難から2007年3月6日に財政再生団体に指定されました。

この夕張市にはドラッグストアが1店舗のみ存在します(個人店舗を除く)。「ココカラファイン平和店」というお店です。

ドラッグストア業界における1店舗あたりの最小商圏人口を見てみると、概ね7,000人程度が下限のようですので、「ココカラファイン平和店」では、この下限人口も下回っている環境下となります。

“限界商圏”でも生き残る術

このような厳しい商圏の元でも「ココカラファイン平和店」は営業を継続し、地域顧客からは高い評価を獲得しています。お客様の声としては、

「想像以上に奥行きがあり、ごく一般的なドラッグストアと変わらないほどの品揃え!」
「お菓子などの食料品から文具などから、なによりマツモトキヨシの商品もズラリ!」
「地域に密着していていいですね。店員さんも皆さん親切です」
「こんな僻地にチェーン店があるという安心感は絶大なものがある」などなど。

細かく見ていくと、このお店が”限界商圏”で生き残っている要素がいくつか見えてきます。

①「市内唯一のドラッグストア」という地域独占戦略

②「医薬品+食料品+日用雑貨+化粧品+地域特産品」という多機能複合戦略

特に多機能複合戦略としては、宝くじ販売やFree WiFi、郵便ポスト設置、地元名物シナモンドーナツ販売、アウトレットコーナー設置など多岐に渡ります。多種多様なサービスが高齢者の医薬品・日用品購入ニーズだけでなく、仕事帰りのワーカー需要、観光客の観光需要などに広く対応して「なくてはならない店」になっています。

<1.地域独占> × <2.多機能化>という2つの突出した要素で生き残っていることが見てとれます。
店舗に求められる全ての要素を伸ばす必要はなく、この2つをしっかりと伸ばすことがキーポイントとなっているようです。

全国で様々な商業施設や店舗の調査をしていると、あることに気付かされます。
「強いお店や生き残っているお店は、お客様が求めている2つの大きな強みを持っている」
分かりやすい例では、ドン・キホーテが「<利用時間帯(深夜利用可) > × <利用形態(若者中心に全ての顧客属性が利用できるオールターゲット化) >」で独自のポジションを築いたように、全てのゲストニーズを高いレベルで満たす必要はないということです。逆に他の要素でニーズの低いものは捨てて効率化することで、より強みが際立つケースも多いです。

人口減少時代に生き残っていくために

ここまでは夕張のドラッグストアの具体例を見てきましたが、厳しい商圏における生き残り戦略は他にもたくさんあります。実際には、商圏特性や業種特性などから様々な生き残り施策があり、どのように施策を組み合わせていくのか、センスが問われることとなるわけですが。

そこで最後に、いままでマーケティング調査やコンサルティングを通じて見えてきた「生き残り戦略に有効な施策」を御覧いただきたいと思います。

[人口減少時代の生き残り戦略に有効な施策(例)]

・必要となる商圏人口10,000人を5,000人レベルに引き下げるための店舗設計変換
・単機能店舗から、機能複合店舗に転換しての地域インフラ化
・家賃や人件費、光熱費等固定費の更なる削減と、粗利率向上による営業利益率の確保・向上
・リアルタイム顧客行動分析による生産性向上、顧客満足度向上
・AIなども駆使しての在庫ロス削減システムの構築
・店舗撤退基準の明確化と早期判断
・競合店舗が『今』考えていることを『昨年』実行して先行優位性を維持する
・余剰スペースの多目的転用による収益多元化、等

現代の店舗開発業務は「この分野だけを極めればよい」という時代から、「時代やエリアに合わせて、必要な戦略を組み合わせて、2つの大きな強みで生き残る」総合格闘技のような時代に変化しています。さて、あなたが今抱えている候補店舗の「大きな2つの強み」をどのように設計しますか?

さいごに

ここまで、「マーケティングのヒミツキチ」では、全10回のコラムで皆様とお付き合いをさせていただきました。皆様の店舗開発業務に少しでも役立つ要素があれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。