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プリンシプル住まい総研 上野所長のテナント賃貸経営のすすめ Vol. 7
賃貸仲介の店長になりました。
これからなにを目指すべきですか?
2021年3月31日
上野 典行
プリンシプル住まい総研 所長
売買仲介や管理受託、相続もよいキャリアですが、
テナント仲介に強くなると、仕事の幅が広くなります
店長は不動産会社のスーパースター?
かつて、賃貸仲介の店舗でも、店長になるには、10年20年とキャリアが必要でした。それは1店舗で、仲介のみならず、管理物件のトラブル対応や、家賃の督促、原状回復の立ち会いや敷金精算、売買仲介、建築提案など様々な仕事をしていたからです。まさに店舗はひとつの会社。社長に次ぐ経営ポジションであり、大ベテランが、豊富な人生経験を元に行う難しい仕事でした。
分業化が進み、3年目の店長も登場
ところが、今や、分業化が進んでいます。管理業務は店舗から離れ、本社の管理部で。売買は売買専門の店舗、時にはブランドまで変えています。クレームはコールセンター、滞納・督促は家賃保証会社。中には、掲載は掲載チーム、反響は反響チームが別途スタッフ側に存在し、契約センターでは申込以降の業務を全部請け負う、といった組織も増えています。
その分、仲介店舗は接客を専門とし、業績アップに全集中。営業がピュアセールスタイムを確保することは、昨今の生産性革命や働き方改革でも世の流れというわけです。
となると、物件を案内・提案し、とにかく成約率をあげるというミッションに集中します。そうなると「当社では3年目で店長にしているよ」という会社も今では普通にあります。やるべき仕事が明確になれば、たしかに数年でそのスキルは極めることも出来ます。
次のキャリアはどうしましょう?
さて、3年目で仮に店長になると、「うーん、これからどうしよう」と考える人もいます。若くして店長になって嬉しいかもしれませんが、そのまま10年20年ずっと店長だと、飽きてしまいます。15年目で3年目と同じ仕事というのも、なんだか成長感がありません。
もちろん店長として、部下の育成やマネジメント、あるいは新しい不動産テックの活用やナレッジの開発など、深めていくべき仕事はあります。しかし、キャリアとして「よし次は賃貸事業部の部長を目指そう」などと考えると、いきなり座席が限られてしまいます。うーん、大先輩の●●部長がいる限り、ずっと店長か。なんだか煮詰まってしまう、という人もいますし、慣れてしまって、イノベーションが起こせないこともあります。
他部署への異動が果たして正解なのか
そこで「売買仲介をやってみたい」「管理部に行きたい」「スタッフをやってみたい」という、他部署への異動というキャリア選択もありえます。賃貸仲介で学んだ仲介力で、額の大きい売買案件をやってみたい。そんな衝動はよくわかります。仮住まいでもある賃貸に比べると、おそらくは一生で一番高い買い物をしていただく売買は、奥が深く、仕事を極めるにはうってつけですね。将来独立を考えるなら、売買は経験しておくべきでしょう。
また、仲介で入居した人が、どう暮らしているのか。管理を仕事とするのもいいキャリアです。店長としての現場経験は空室対策でもリアリティが強く、大家さんとの会話も弾むかと思います。スタッフ職でも現場をよく知る人材として、ITシステムの変革や社内業務の効率化など、様々なマネジメント経験が出来そうです。
相続の資格を取得したり、土地活用の提案をするなども、あなたのキャリアにとって幅を広げることが出来そうです。
でも、仲介が好きだ
そうしたマルチキャリアという路線もいいのですが、一方で、毎日やっている賃貸仲介の仕事は、お客様の笑顔もすぐ見えやすく、手応えもあり、自分にはあっているな、と感じる人もいます。せっかく店長で成功しているのに、社内とはいえ、売買や管理に行くのは、転職するくらいの勇気も必要です。今の仕事が向いているのに、わざわざ違う職種に行くのもな、という不安を持つ人もいます。
例えるなら、「別れ道に来て迷っているわけでもないのに、あえて違う道にいく必要を感じない。この道のまま、先に進むけど、ちょっと登る、ということは出来ないかな」という気分です。
日々の賃貸仲介の仕事で、よりハードルをあげてみたい。今の仕事の延長で、なにか「上級編」のようなものはないか。そう考える人もいると思います。
そんな店長に身につけてほしいテナント仲介の仕事
今の賃貸仲介の仕事の延長にある、難易度の高い仕事があります。それがテナント仲介です。専門のテナント課がある会社もない会社もありますが、管理物件を獲得し、仲介件数をあげていくと、テナントは実は避けては通れません。単価も高いし、決まれば、入居テナントも物件オーナーも大喜び。家族や友人に「このカフェは僕が入居斡旋したんだよ」とちょっと自慢も出来ます。
しかし、テナントはそう簡単ではありません。安くて広ければいいという訳ではありません。飲食店に向いている立地もあれば、物販に向いている場所もあります。駐車場は?厨房は? 経営は上手く行くだろうか? そもそも入居希望するテナント企業の確保も難しい。これまでの仕事の仕方とは大きく異なります。
商売を学び、人脈が拡がる
難しい仕事であるテナント仲介ですが、これまでの仕事の一歩先で「商売する場所」「働く場所」を学ぶことになります。考えてみれば、これまで仲介した入居者さんも、どこかで買い物をし、どこかで飲食をしています。不動産の仲介をしながら、その「商売」や「働く場所」を学ぶ事は、「なるほど左側通行を無意識にする人が多いから、看板はこっち向きか」「ドアをこうすると、ラーメン屋さんは繁盛するのか」「業務用の排気ダクトって、こんなに臭いが出るのか」などと多様です。この経験は「住まい」だけでなく「商売」を学ぶ機会ともなり、人生観も変わるのではないでしょうか。
また、テナント出店担当者や、起業家など、様々な人と出会えます。お部屋探しでも沢山の人に会えますが、ビジネスをする現場での人脈。「コンビニの出店計画を立てる人はこんなふうに考えるのか」など、これまでとは違った視点で人と出会い、人脈も出来ます。そして、大好きな自分の街で商売をしている人との人脈は、きっとこれからのキャリアでも円が拡がります。あのとき店舗を紹介した人が会社を大きくして、当社に社員の転勤を任せてくれるようになった、なんて劇的な話も。
今の店長職を極めつつ、一歩踏み込んでテナント仲介も決めていくと、店長のキャリアにも磨きがかかり、経営の醍醐味を学べるのではないでしょうか。