無人書店「ほんたす」とは?

早速ですが、ほんたすについて教えてください。

昨年9月に東京メトロ「溜池山王」駅にオープンした、完全無人の書店です。オープンから9ヶ月がたち、会員数が1万人を超えましたが、店前通行者数が約2万人いることを考えると、もっと会員数を増やしていけると思っています。全体としてはうまくいっていますが、無人店舗への心理的ハードルはまだまだ高いのかなと感じています。ただ、一度来店してくださったお客様のリピート率は高く、4月に経産省に「書店振興プロジェクトチーム」が発足したこともあり、無人書店に注目が集まっているのを感じます。

画像提供:丹⻘社 撮影:PIPS

「ほんたす ためいけ 溜池山王メトロピア店」。LINEの友だち追加ですぐに会員証が発行され、その後はQRコードをかざすだけで入退店が可能。気に入った本があれば、セルフレジで購入することができる。

ほんたすを出店したきっかけは?

いま地方だけでなく都心部でさえも書店の数が急激に減っており、このまま生活の動線上に本とのタッチポイントがなくなると本離れが更に進んでしまう危機感がありました。街の書店は地域のコミュニティセンターであり、文化発信拠点であるため、出版取次の立場としてどうやって持続可能していくかを考え、開発に至りました。

業界存続の為には、本とのリアルな接点を減らさないことが重要だと。

はい。書店が減っていると話しましたが、書店経営のネックは人件費と賃料です。そこで、人件費をゼロにすることができれば、高賃料の好立地(生活動線上)に出店しても経営が安定するのでは?という仮説に基づいて完全無人店舗を立ち上げました。それに、超好立地に出店すれば、書店に行く習慣のないお客様を新たに取り込むことができるのではないかとも考えました。
つまり、持続可能な書店のモデルを確立するのと同時に、本に馴染みのない層を取り込むことを目的として始まった事業というわけです。

そもそも、ほんたすを運営している日販様とはどんな会社なのでしょうか?

弊社は出版取次とよばれる、全国の出版社から本を仕入れて、書店に販売する物流事業会社です。今回は取引先様である書店が抱える課題に対するソリューションとして貢献するために、自ら出店しモデル開発を推進しています。

お話を伺った日本出版販売株式会社 ほんたすブランドマネージャー南光太郎様

出版業界や書店を取り巻く状況は、どのようになっていますか?

書店の数は20年前から6割にまで減少し、10,000店舗程度となっています。弊社の調査によると、コロナ前と比較して、書店の来客数は75%にまで減っています。ただし、今まで書店の数がやや過多だったのと、人口減少や需要の変化で縮小せざるを得ない理由もあるとは思っています。

書店の総店舗数推移
(資料)日本出版インフラセンター(JPO) 書店マスタ管理センター  
    ※グラフはインフォニスタにて作成

書店減少の要因はECの台頭にあると思いましたが、それだけではないんですね。

確かにそれもあります。近所に書店がなければネットで注文するしかありませんし、欲しい商品が決まっていればそちらに流れる傾向はあるだろうなと思います。
ただそれだけではなく、本や雑誌が貴重な情報源だった昔と違い、スマホがあればいつでも無料で情報や娯楽を手に入れられるようになったのも大きな原因のひとつかと思います。

都心でも書店減少、高い人件費が経営を圧迫

書店経営の難しさの一因が人件費にあるというのは初めて知りました。

そうなんです。どんなに小さな書店でも最低2人は店員が必要です。回転率が良いお店ほど、商品を補充しつづける担当と、レジ打ち担当が常駐しなければなりません。
また、賃料も書店経営の難しさの一因と言えます。例えば、新宿駅の目の前、1日30万人が通る超好立地の書店でさえも閉店してしまいました。売上が良くても、それ以上に賃料が高すぎると経営は成り立ちません。

最近はセルフレジも増えていますが…。

セルフレジの導入には初期費用がかなり掛かりますから、導入できる店はごく一部です。そういう負のスパイラルが進み、都心でも厳しい経営状態の店が増えています。

確かに、都心でも書店が減っているのを実感します。

首都圏では駅乗降客数3万人につき1軒は書店があるといわれていましたが、現在は、5万人いるエリアでさえ経営が厳しく、書店が不足しているエリアは都心にも多く存在します。

今回、出店した溜池山王も本屋難民が多いエリアなんですね。

ええ。東京メトロ様にも書店が必要だという思いに共感してもらえました。このようなトラフィックの多い好立地でも経営が成り立つモデルを確立したいと思っています。

でも、無人でどうやって店を運営するんですか?

毎朝「ラウンダー」とよばれる陳列専門のスタッフが、店に届けられた書籍を1時間くらいかけて売り場に並べる作業をして、営業時間中は監視カメラで店内の見守りをしています。さらに、お客様はいつでもサポートセンターとビデオ通話することができます。

無人店舗の仕組みは、十分成立していると。

はい。万引きや会計ミスもありませんし、今のところ大きなトラブルもありません。おそらく、無人書店だと理解した上で入店してくださるので、お客様自身が努力をしてくれて、分からない事があっても自力で解決しようとしてくれますし、商品も丁寧に扱っていただけています。

経営効率化だけでなく、本が持つ魅力を啓蒙することもこれからは大事になりそうですね。

当社としても、新規マーケット開拓の一環として、入場料制の書店「文喫」や、ブックホテル「箱根本箱」などを立ち上げて、本をキーワードに豊かさを届ける会社へと進化すべくチャレンジしているところです。

入場料を払えば1日中好きなだけじっくりと本を吟味できる滞在型の書店「文喫」。約3万冊の書籍を販売しており、コーヒーや煎茶は飲み放題。食事やデザートを提供する喫茶スペースもある。

今回、取材に応じていただいた企業様

⽇本出版販売株式会社

本社所在地
東京都千代田区神田駿河台4丁目3番地
設立
1949年(昭和24年)9月10日
※2019年10月、持株会社体制への移行に伴い事業会社化
事業内容
1. 書籍、雑誌、教科書及び教材品の取次販売
2. 映像及び音声ソフトの製作、販売、ならびにこれに関する著作権の取得、賃貸
3. コンピュータ機器及びソフトウェアの販売、ならびに情報提供サービス
Webサイト
https://www.nippan.co.jp/