環境に適応して変わっていく人と生活

暑い毎日が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。これだけ暑いと外に出るのが億劫になること、ありませんか。「あぁ、もう外に出ると汗びっしょりになっちゃうから、今日の晩御飯はUber Eatsで頼んじゃおう」なんて。人は環境の変化に応じて最適な行動をとりたがる生き物ですから。

環境の変化と言えば、ここ10年程で人類が経験した最も大きな変化は「コロナ禍」ではないでしょうか。コロナ禍前とコロナ禍後では、ショッピングセンター(以下、SC)やテナントなど、リアル店舗を取り巻く環境も大きく変わりました。あの社会全体が混乱した日々を振り返ると、「コロナで一番変わったことってなんだろう?」と思うのです。明らかに、何かが変わってしまいました。

コロナ前後で大きく変わった「場所の価値」

リアル店舗を取り巻く環境で一番変わったことは、「物理的な場所の価値」ではないでしょうか。今までは「モノを売る場所」として当たり前に認知されて価値も認めてもらえていた場所が、コロナ禍が始まってからは「あれ、そもそも店に行く必要ってあるの? リスクが高まるだけじゃない?」と疑問符が付くようになりました。近くのスーパーで手短に買い物を済ませて生活し、人の集まる駅ビルや大型SCには極力行かない。そんな日々でしたよね。
もちろん、感染リスクが低下するにつれてその感覚や行動は薄まっていくのですが、一度体に染みついた感覚はなかなか抜けないものです。

・そもそも出勤する必要があるのか
・わざわざ全国各地に出張する必要があるのか

仕事のシーンにおいても「物理的な場所の価値」は変化しました。

このような変化を踏まえて、あらためてこちらのグラフを見て下さい。
こちらはコロナ前後のSC立地別売上高推移です。

日本ショッピングセンター協会「SC販売統計調査報告」をもとに著者にて作成

オレンジ色の線はスーパーやドラッグストアなどエッセンシャル業態を中心とした郊外型SCの売上推移で、ここの落とし幅は小さく、2023年には復活しています。
一方、一等地の駅近や繁華街に立地する都心型SCでは、ECシフトが進んだアパレルなど物販比率の低下などの影響で売上を大きく落とし、以前の売上まで復活するには2024年までかかりました。

2024年くらいからはインバウンドの急速な回復もあり都心型SCの反動回復が強まった結果、直近では都心型SCの売上が大きな伸長を示す一方、郊外型SCの売上はやや減速傾向が見られます。
ここまでが、皆様がこの5~6年で目の当たりにしてきた状況です。郊外型SCは「便利に利用できる価値」をリアル店舗として維持して少ない落とし幅で健闘してきました。一方、都心型SCは「わざわざ行く価値がある体験」を中心にゆっくりと復活してきました。

テナント企業はどのような方向で開発を進めることが”正解”なのか?

そしてここからが問題です。
「2026年度以降、テナント企業としてはどのような方向で開発を進めることが”正解”なのか?」

もちろん、”正解”はひとつではなく、様々なカタチがあると思いますし、コロナ禍前には見られなかった”正解のカタチ”がいくつも見られるようにもなってきたと思います。

そして、ショッピングセンター業界では、「便利に利用できる価値」「わざわざ行く価値がある体験」の二極化が進んでおり、「郊外型か・都心型か」という場所としての立地選択の話ではなくなってきていると思われます。

いま、大きな成功を収めているテナント企業を見ていると、お客様に対して「便利に利用できる価値」と「わざわざ行く価値がある体験」の両方を、立地特性に合わせて提供できている傾向があると思います。このハイブリッド戦略はSC業界の二極化時代を勝ち抜く上で重要なポイントになってくると思います。実際のハイブリッド戦略の成功例はいくつもありますが、ここでは「無印良品」さんのケースをみていきたいと思います。コロナ禍後の消費者の「見えない変化」に対して敏感に対応できており、都心店舗と郊外店舗で完全に差別化を行って、お客様のニーズをうまく捕まえていると思います。

「無印良品 銀座」の都心でほっこり空間

ここ数年は仕事の関係で週一、二回は銀座で過ごすことが多いのですが、銀座でよく利用させてもらったのが無印良品の都心旗艦店「無印良品 銀座」です。
Withコロナの頃はECでモノを買うことが本当に多かったのですが、その当時でも「無印良品 銀座」には足繁く通っていました。他の無印良品では買えないものも多かったですし、何というか無印良品の世界観とか空気感のようなものを色濃く反映しているお店だと思います。
当時は珈琲にはまっていたので「銀座ブレンドコーヒー」や「銀座限定スイーツボックス」などをチェックしながら、お菓子類をバカ買いするような日々でした。
MUJI HOTELに泊まった経験はなく、MUJI Dinerの利用も数回のみですが、無印っぽさと銀座の立地が相俟って、ほっこりする空間だなぁと思っています。

ちなみに「無印良品 銀座」の平均滞在時間は約85分(通常店舗の2.8倍)だそうです。「わざわざ行く価値がある店舗」としてしっかりと成果を挙げているのが素晴らしいと思います。

「無印良品 越谷レイクタウン」の農家直売所

一方で、「無印良品 越谷レイクタウン」では「便利に利用できる価値」を地元農家直売所「無印良品の野菜」として展開しています。地元の三郷市や吉川市、越谷市の農家と直接契約して、朝採れ野菜を当日販売する常設コーナーです。どの野菜も味が濃く感じられて、私は好きです。
このお店では地元の醤油蔵と共同開発した「三郷の醤油」や埼玉県産小麦100%を使用した「埼玉パン」など、地域食材を活用した商品も開発して販売していたと思います。
地元食材販売コーナー導入後、食品カテゴリーの売上が前年比22%増加となったようで、成果も挙がっています。

無印良品の成功例はほんの一つの事例ですが、ECではできない価値の出し方として、「便利に利用できる価値」と「わざわざ行く価値がある体験」の両方を、立地特性に合わせて提供していくハイブリッド戦略は、今後も企業成長のカギとなっていくと思います。
時代は進化しているのですね。

それでは、また。