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調査・マーケティング ― マーケティングのヒミツキチ Vol. 7
「今までの店舗開発」と「これからの店舗開発」の違い
公開日:2025年6月20日

長曽 雅彦
株式会社コネクト 代表取締役

店舗開発を行う際の新しいSC判定基準
今日は「今までの店舗開発」と「これからの店舗開発」の違い、というテーマでお話してみたいと思います。店舗開発御担当の皆様には、ストレートに刺さるお話になると思います。そんなお話をしようと思ったきっかけは、つい先日の個人的な出来事にあります。
病院内でのちょっとした困りごとを確実に解決する「ホスピタルローソン」
身内が入院することになり、バタバタと病院に付き添いで来ていた私は、看護師さんから入院の際に必要なものの説明を受けていました。病院やら入院やらに慣れていない私は「あぁ、あれもない、これもない・・・」と焦っておりました。
そんな私の様子を見た看護師さんはくすっと笑いながら、「大丈夫ですよ。病院の中にホスピタルローソンがあるので、そこでなんでも揃いますよ」と教えてくれました。
「ホスピタルローソンってなんだ?」と思いながら、看護師さんに手渡された用紙を手に病院内にあるローソンに向かいました。店員さんに「こんな入院アイテムが必要なんですが」と相談したところ、「はい。T字帯(※手術時専用下着)とスリッパと・・・」とアイテムを次々にかごへ入れてくれます。「えぇ~。病院の中のローソンってこんな風になっているんだ」と呟くと、「そんなことも知らないの(とは言いませんでしたが)」店員さんに笑われてしまいました。
不明を恥じて、事務所に戻ってから少し「ホスピタルローソン」のことを調べてみました。
「ホスピタルローソン」では患者だけでなく、付き添いの家族や医療従事者など、それぞれ異なるニーズを把握した上で寄り添い、病院内でのちょっとした困りごとを確実に解決する存在として、患者や家族、病院スタッフの生活を支えているようです。つまり、医療現場の課題を深く理解した商品やサービス開発を行っているのです。これって、明らかに今までのローソンの店舗開発のカタチとは一線を画していると思いませんか。
店舗から課題解決拠点へのパラダイムシフト
「今までのローソンの店舗開発」だったら、人通りが多い場所に出店して、他社の品揃えと価格帯を意識しながら品揃えをする<箱>をつくってお客様の来店を待つ、という感じだったと思います。でも、「ホスピタルローソンの(これからの)店舗開発」では、お客さんのお困りごとがある場所に出店して、商品だけでなく様々なお客さんのお悩みや生活全体をサポートする<課題解決の場所>をつくる、という感じに変化しています。これは、大きなパラダイムシフトです。
マーケティングにおけるパラダイムシフトの本質は、「企業中心の効率追求」から「顧客中心の価値創造」への根本的転換と言えます。これは単なる手法の変更ではなく、ビジネスの存在意義そのものを再定義する革命的な変化です。
コンビニ業界自体が飽和状態にある現状において、ローソンだけでなくコンビニ各社は量的拡大から質的向上へのパラダイムシフトを図っています。
たとえば、
・新業態開発による差別化戦略
・地域密着型サービスによる価値創造
・デジタル技術活用による効率化、などなど
これらの施策により、飽和市場でも持続可能なビジネスモデルの構築を目指しています。コンビニ市場の成熟は終わりではなく、新たな価値創造の始まりとして進化を続けているのです。今後は、コンビニの社会的役割がより重要になるのだろうな、と思います。
量的拡大から質的向上への変革期
ここまで読んでいただいた皆様に、質問です。
あなたの業界は「国内において飽和状態にありますか?」
ちなみに2024年度の国内全業種の飽和状態を分類すると、以下のような結果になるようです。

実に日本にある様々な業種のうち、4割が結構な飽和状態にあるようです。
コンビニを含む高飽和業種では、人口当たりの店舗数が国際的に見て極めて高く、新規出店の困難度が高まった結果、量的拡大が限界に近く、異業種との境界線が曖昧になったことも相俟って、競争が複雑化しています。
先程の質問で「自分の業界はもう飽和状態だ」とお答えになった皆様におかれましては、まさに量的拡大から質的向上へのパラダイムシフトを図られている真っ最中なのではないでしょうか。
量的拡大から質的向上に移行する際、最も重要となるのは「お客様の気持ちと行動を深く理解して一番役に立てる場所と方法を見つける力を磨くこと」です。
今までなら、「駅前は人が多いから、ここにお店を出そう」「ショッピングセンターのこの場所なら流量も多いので出店しよう」でよかったのですが。これからは「朝7時にここを通る人は、仕事前にコーヒーとサンドイッチが欲しいはず。夕方6時には疲れて甘いものがきっと欲しくなる。土曜日は家族連れが多いから子供向けメニューも必要」という”お役立ちシーン”を描いて、お客さんの役に立つという発想がより重要となります。
ここで、私が既存店舗のリニューアルなどの際に、「お客さんの役に立つために行っているアクション」を5つほどご紹介します。何らかのご参考になれば幸いです。
❶候補地に朝・昼・夕方・夜と4回行って、通る人を観察する。
(「どのような人が多い?」「急いでいる?」「疲れている?」「楽しそう?」)
❷通る人が個々に抱えている困りごとを創造する
(「何が不足している?」「何に困っている?」「何があれば満足できそう?」)
❸その人になりきってのシミュレーションする
(主要ターゲットのお客さんになりきって、朝から晩まで行動して、困りごとと嬉しいことを実感する)
➍競合店の良いところをどのようにして上回るか考える
(これは凄いなと思う競合店の空間やサービスを上回る方法を熟考する)
❺実際にお客さんに話を聞く
(お客様にアンケート調査やグループインタビューなどで、個々のお困りごとやあれば嬉しいを傾聴する)
そうなんです。
皆様が普段当たり前にやっているようなことばかりだと思います。ただ、考えた末の結果の活かし方に変化をつけて頂きたいのです。【今までの考え方】が「美味しいハンバーガーがたくさん売れる店を作ろう」というものだとすれば、【これからの新しい考え方】では、上記のようなアクションを通じて、「忙しい人が短時間で栄養と満足感を得られる、心も体も元気になる場所を作ろう」というように、「個々のお客さんの役に立つ」ためへと目的を変化させていただきたいのです。
成功している企業は、現在の激しい変化をピンチではなくチャンスとして捉えて、新しいパラダイムに適応した組織を再構築しています。皆様の「変革するチカラ」を発揮するのは、まさに今なのです。
それでは、また。