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調査・マーケティング ― マーケティングのヒミツキチ Vol. 9
どちらの商業施設に出店するか迷った時は ~将来性の見極め方~
公開日:2025年9月5日

長曽 雅彦
株式会社コネクト 代表取締役

金沢で行きたい店
金沢を訪れることとなりました。仕事はそこそこに、いえしっかりと済ませた上で、夜はどの店で何を食べようかと胸が躍ります。金沢と言えば、能登半島の風と波が口の中で踊る能登牡蠣やのどぐろ、金沢おでんもいいですねぇ。酒は辛口の天狗舞で、などと同行者と話していたのですが、行きたいお店が双方ともにあり、困ったことにどちらも譲らないという大人げない事態となりました。
どちらの推しもある種「究極の店」なので、このコラムを書いている時点で、まだどちらの店に行くか決定していません。2つのよいものから、1つを選ぶのって難しいですね。
どちらの商業施設に出店するか?
店舗開発の現場でも「どちらの商業施設も出店するには良さそうだけど、どっちがいいんだろう?」と迷うこと、ありませんか? どちらの商業施設にもそれぞれ良さがあるので、「いざ選択」となった際に判断が難しいと思います。でも、もっと問題なのは、社内説明の時に「なぜ、こっちの方がいいの?」と聞かれた時に理路整然と説明できるかということもありますよね。こういう時にマーケティング屋という生き物が必ず行うことに「数字で説明する」があります。「2つの商業施設の比較データによると、将来性はこちらのショッピングセンターの方が高く、出店する価値が高いです」と説明できれば、説得力は高まりますよね。
自分の主観や感想ではなく、データがこう言っていますよということで、データという共通言語で議論ができることが一番の強みですが、このやり方を続けていくと「前回も同じような選び方をしたA店の売上は順調に推移しています」という実績を提示することで再現性もアピールできます。
この再現性というやつもマーケティングの強みの一つだったりします。
では、具体的にどのようなデータを揃えれば「2つの商業施設の将来性が簡単に比較分析できるのか」見ていきましょう。

2つの商業施設の将来性を簡単に比較分析する方法(フローの確認)
ここからは具体的な方法を見ていきましょう。とても簡単なので、すぐにできてしまいます。
一番手っ取り早い方法としては、以下の3段階のフローで「将来性」を見極める方法がお勧めです。
1. 2つの商業施設がそれぞれどの<商業立地>に該当するか確認する
(大まかに、都心型商業施設/郊外ファミリー型商業施設/駅直結型商業施設の3つに分類)
↓
2. 該当する<商業立地毎の標準的な業種別構成比>を確認する
↓
3. 比較検討する2つの商業施設の<業種別構成比>を物販/飲食/サービス/エンタメ各業種別で算出し、<商業立地毎の標準的な業種別構成比>と比べて、今後の将来性を判断する
ちょっと分かりづらいので、具体的な数値を入れ込んだ例を見ていきましょう。
2つの商業施設の将来性や集客力を簡単に比較分析する方法(具体例)
1. 2つの商業施設がそれぞれどの<商業立地毎の業種別構成比>に該当するか確認する
(大まかに、都心型商業施設/郊外ファミリー型商業施設/駅直結型商業施設の3つに分類)
ここでは2施設とも「郊外ファミリー型商業施設」ということにしておきましょう
2. 該当する<商業立地毎の標準的な業種別構成比>を確認する
以下は大まかな数値ですが、参考数値としてご覧ください
【都心型商業施設】
・ 物販35-45%(従来から減少トレンド)
・ 飲食35-45%(従来から増加トレンド)
・ サービス15-25%(急成長分野)
・ エンタメ5-15%(体験型エンタメ需要が増加トレンド)
【郊外ファミリー型商業施設】
・ 物販50-60%(従来から減少トレンド)
・ 飲食25-30%(従来から増加トレンド)
・ サービス10-15%(急成長分野)
・ エンタメ10-20%(体験型エンタメ需要が増加トレンド)
【駅直結型商業施設】
・ 物販40-50%(従来から減少トレンド)
・ 飲食30-35%(従来から増加トレンド)
・ サービス15-20%(急成長分野)
・ エンタメ5-10%(体験型エンタメ需要が増加トレンド)

3. 比較検討する2つの商業施設の<業種別構成比>を物販/飲食/サービス/エンタメ各業種別で算出し、<商業立地毎の標準的な業種別構成比>と比べて、今後の将来性を判断する
以下のように、検討しているショッピングセンターの業種別構成比を計算してください
個々の計算結果を<標準的な業種別構成比>と比較することで大まかな分析ができます
Aショッピングセンター(郊外ファミリー型商業施設)の業種別構成比から見た分析
・物販 :65%(⇒物販比率が未だ高いため、-5から-15%の調整圧力が掛かる可能性あり)
・飲食 :20%(⇒飲食比率がやや低いため、+5から+10%の増加余地あり)
・サービス:10%(⇒サービスは+5%の増加余地あり)
・エンタメ: 5%(⇒エンタメは+5から+15%の増加余地あり)

Aショッピングセンターは物販テナントの5~15%が飲食・サービス・エンタメに転換される可能性あり
Bショッピングセンター(郊外ファミリー型商業施設)の業種別構成比
・物販 :50%(⇒適正範囲内)
・飲食 :25%(⇒適正範囲内)
・サービス:15%(⇒適正範囲内)
・エンタメ:10%(⇒適正範囲内)

Bショッピングセンターは積極的にリニューアルを進めてきており、今後業種別構成比が大幅に変動するリスクは少ないものと想定
上記のような分析を行っていく事で、自店の業種と、2つの商業施設の状況を併せて考慮することで、どちらの商業施設の方が自店にとっての将来性があるかを判断しやすくなります。
また、当該の商業施設自体の現在地を業種別構成比というひとつの物差しで測ることで、今後この物件がどのように推移していくのかを、リニューアル状況なども併せて予測することもできます。
もちろん、出店判断は様々な要素からの検討が必要ですので、募集区画前の人流や優劣、募集条件、マーケットデータ、競合出店状況など多種多様な面から検討されることとなります。今回の手法は検討方法のひとつとして考えてください。
それでは、また。