売上予測って何のためにやるの?

売上予測とは、その目的

売上予測とは、店舗がどれだけ売り上げるか、その見込みを推測することを言います。

売上に影響を与える様々な要因(変数)を集め、それらを基に売上を予測していきます。

とはいえ、変数には「駐車場台数」や「売り場面積」「競合店の数」など“量的”なものだけでなく、「土地柄」や「季節や天候」など“質的”なものもあり、すべてを正確に捉え切れるものではありません。

売上予測は、あくまでも“予測”。「100%のものではない」ということは、最初に認識しておきましょう。

売上予測の方法は、複数ある

ひと口に「売上予測」と言っても、その方法は複数あります。簡単な数式で大まかな売上見込みを算出する方法から、統計学的・数学的に構築した予測モデル(売上予測を算出するための数式)を駆使する方法まで、さまざまです。

それでは、実際に、具体的な方法を見ていきましょう。

売上予測の方法

① シンプルな売上予測

(1) 客席数から売上げを予測する方法(回転率法)

売上 = 客席数 × 回転率(日) × 客単価 × 営業日数

この方法は、飲食業で使われる売上予測の方法です。回転率とは、1日に客席が何回使われるかを求めるもので、1日の来客数÷客席数で算出されます。それでは、具体例をみてみましょう。

・客席数=20席
・来客数=100人/日
・客単価=1,000円
・営業日数=30日/月

まずは、回転率を求めます。

1日の来客数 100人 ÷ 客席数 20席 = 5

式に代入すると、以下のような月間売上の予測が立ちます。

客席数 20席 × 回転率 5 × 客単価 1,000円 × 営業日数 30日/月 = 3,000,000円/月

回転率法は、簡単に算出できるのがメリットですが、来客数や客単価を正確に推定するのが困難であり、精度が低いというデメリットもあります。また。客席のない物販では使えません。

(2) 通行量から売上を予測する方法(キャッチ率法)

売上 = 通行量 × キャッチ率 × 客単価 × 営業日数

この方法も、回転率法と同様に昔から使われている売上予測の方法です。キャッチ率とは、店の前を通る人のうちの何%が来店するかを求めるもので、来客数÷営業時間帯の通行量で算出されます。それでは、具体例をみてみましょう。

・通行量=10,000人
・来客数=100人/日
・客単価=1,000円
・営業日数=30日/月

まずは、キャッチ率を求めます。

来客数 100人 × 営業時間帯の通行量 10,000人 = 0.01

式に代入すると、以下のような月間売上の予測が立ちます。

通行量 10,000人 × キャッチ率 0.01 × 客単価 1,000円 × 営業日数 30日/月 = 3,000,000円/月

キャッチ率法も簡単に算出できるのがメリットですが、通行量を実際調べてみることはできるものの、やはり精度が高いとは言えません。

② 類似店分析

既存店舗と新規出店予定地の店舗がどの程度似ているかを評価し、その結果を基に売上予測を行う分析手法です。

商圏特性等が類似する場合、売上も類似する」ということを前提として、類似する既存店の売上から、新規に出店する店舗の売上を予測していきます。

既存店のデータを利用して売上予測ができるのはメリットと言えますが、既存店がない新規出店の場合は用いることができません。また、店長によって売上が変わると言われるように、既存店データや商圏特性以外の要因が売上に与える影響も考えると、必ずしも精度が高いとは言えません。

③ ハフモデル

アメリカの経済学者デービット・ハフ博士が開発した、吸引率を求める公式です。

吸引率 (※1) = 魅力度 (※2) / 距離 α (※3) ÷ Σ (魅力度 / 距離α)

※1「吸引率」:消費者が、ある店舗へ買い物に出かける確率。
※2「魅力度」:ハフモデルでは、「魅力度」を「店舗面積」とするのが基本。とはいえ、近年では、面積だけでは店舗の魅力は測れないということで、その他、多彩な変数を設定するようになってきている。
※3 α:距離抵抗係数。その店舗まで足を運ぶことに面倒さを感じる指数のこと。食料品や消耗品などの日用品では係数が高くなり(面倒さ大)、家電などの買回品では係数が低くなる(面倒さ小)傾向にある。修正ハフモデルの距離抵抗係数は2に設定されている。

数式を見ると難しそうに映りますが、考え方はシンプルです。それは…、

「吸引率は、売り場面積に比例し、店舗への移動距離(または時間)に反比例する」

もっと簡単に言い換えると、

「お客さんは、より近くて、より大きい店舗に吸い寄せられる」ということです。

吸引力がわかることで、そこから来客数を算出し、客単価をかけ合わせれば売上が予測できます。上記の例では、消費者がA店に行く確率は25%となるので、そこから想定される来客数を算出していきます。

ハフモデルは、競合店を加味しながら売上予測をシンプルにできるのがメリットですが、魅力度を売り場面積だけにするには無理があります。そこで、現在は、「魅力度」を「店舗面積」以外の変数(例えば、「店舗面積」×「駐車場台数」等)にすることで、より精緻な分析を行うことが増えています。(アドバンスハフモデル)。

④ 重回帰分析

重回帰分析とは、様々な「要因(説明変数)」の影響を同時に測って、「予測したい成果(目的変数)」を導き出す分析手法のことを言います。

売上予測においては、「目的変数」は「売上」となり、「説明変数」として「売り場面積」や「駐車場台数」といった店舗データ、「商圏人口」などの商圏データを使用します。

目的変数 説明変数1 説明変数2 説明変数3
売上(万円) 売り場面積(㎡) 駐車場台数(台) 商圏人口(人)
店舗1 1,250 250 25 120,000
店舗2 500 100 10 90,000
店舗3 800 160 16 85,000
店舗4 1,950 390 39 160,000
店舗5 1,050 210 21 125,000

売上 = (売り場面積 × 係数 1) + (駐車場台数 × 係数 2) + (商圏人口 × 係数 3)…

このように、要因となるデータが豊富に集められる場合に、より充実した分析結果が得られやすくなる手法です。

モデル作成に際しては統計解析ソフトを使用するのが一般的ですが、エクセルのデータ分析機能を使えば、自動で計算・作成してくれます。

このように比較的実行しやすい重回帰分析ですが、注意点もあります。

説明変数には非常に多くの種類がありますが、関係性の高いものを説明変数の組み合わせは避けましょう。関連性の高い項目の組み合わせが含まれたまま分析をすると、正確な結果が得られない可能性があります(多重共線性)。また、精度の高い分析をするには、説明変数の数に応じた店舗データ数が必要となります(一般的に、説明変数1つにつき15店舗分のデータが必要と言われています)。

より精度の高い売上予測を目指すのであれば、重回帰分析ができる商圏分析ツール(GIS)を検討してもよいでしょう。

⑤ AIを使った売上予測

近年では、機械学習や深層学習(ディープラーニング)の技術進展により、AIによる売上予測の精度が大幅に向上しています。

事業者が保持する既存店舗データや顧客データ、商圏データ等に加えて、国勢調査等の統計データなどを用いて、高精度の売上予測モデルサービスの提供も実現されるに至っています。

まとめ

以上、「売上予測」について、概要をお伝えしてきました。
ハフモデル分析や重回帰分析など、様々な分析手法がありますが、それらは、あくまでも予測モデルを構築する手段に過ぎません。大切なのは、「売上予測分析の全体的なフロー」=「分析スキーム」の構築に意識を向けることです。

売上に関連するデータを収集するところから、予測モデルを作成し、違和感のあるポイントにはチューニングを加えていく。そういった一連の分析スキームの構築にていねいに取り組んでいくことで、売上予測の精度を高めていくことが可能になります。