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特別インタビュー
店舗開発のプロが語る、激変する出店戦略の今 / ザイマックスコモンズプロ座談会(前編)
公開日:2025年9月25日
コロナ禍をきっかけに激変した消費行動、そして、止まらない物価高騰や働き手不足。これらは出店戦略にも大きな影響を与えています。ザイマックスのグループ企業であり、主に小売業の店舗開発業務を代行するザイマックスコモンズプロでは、多くの店舗開発のプロが所属しています。小売業の現場が「今」何に取り組み、「これから」何を目指すべきかについて、ザイマックスコモンズプロに所属する坂崎氏と横山氏にお話を伺います。前編では、店舗開発のプロだからこそ語れる転換期を迎えた開発業務の今、そして、出店戦略の大胆な変更をきっかけに売上増加に転じた裏話などをお聞きしました。
INDEX

コロナ以降、大きく変わった出店戦略
コロナ以降、どの企業も出店に関する考え方や手段が大きく変わってきたと実感しています。そこでまずは、店舗開発を数多く手がけてきたお二方に、コロナ後の出店戦略の変化についてお聞きしたいと思います。
横山:私は居酒屋チェーン店で約25年間、店舗開発を担当していました。一番の変化としては、お客さんの来店時間帯ではないでしょうか。劇的に変わったのは、都心の渋谷、新宿、池袋、いわゆる飲み屋街です。特に、渋谷は17時から翌朝5時までの12時間営業が普通でしたが、コロナ後、24時以降はめっきり客が入らなくなりました。お客さんが早く始めて早く帰るようになりました。
もう一つの変化が“昼飲み”の普及です。特に新宿は、昼営業が予想以上に流行りました。客層もサラリーマンや学生、若者がメインだったのが、家族連れや女性客が増えたのは予想外でした。

横山 昭人
大学卒業後、一貫してフードサービス業界に従事。店舗開発経験は約 25 年。2024年ザイマックスコモンズプロに参加。
客のニーズや使い方が変わったのが一番の変化ということですね。そういった変化は、現場から情報としてあがってくるのでしょうか?
横山:会議で現場から要望が出てくるんです。昼メニューを増やしてほしいとか、団体客が増えたので、店のレイアウトを変えてほしいとか。実際、一組当たり2.5人をベースにレイアウトしていたのが、コロナ後は単独客が減って3人近くにまで増えた為、4人席を増やした店舗もありました。
客の動向変化にあわせて立地戦略も変えたのでしょうか?
横山:それはありませんでした。あらかじめ出店場所を決めて探し始めることはあまりなく、今期は何店舗だすか目標が決まっていて、それを達成するために出店空白地からエリア選定して物件を決めていましたから。
では、コンビニ業界で約40年間、店舗開発を担当していた坂崎さんはいかがですか?
坂崎:コンビニは“変化対応業”だと思っています。“コンビニエンス(便利な)ストア(店)”というくらいですから、その時々の便利を追求するために、出店においてもデータを重視して、出店数はもちろん出店位置まで決めていました。
過去の出店データから「この場所で、この店舗要件で出店すれば売れる」という推測が全国津々浦々まで可視化され、店舗開発担当が指定されたエリアや物件にアタックしていくイメージです。
コモンズプロに入社して様々な業界の方とお付き合いするようになって驚いたのは、経験と勘で出店を判断する企業が多いことです。一概に悪いことだとは言い切れませんが、企業が拡大するにつれて担当者によるズレが大きくなってくると思うので、既存店の傾向を分析して一定のデータを取るべきではないかと思います。そうすれば、担当者が入れ替わっても当たり外れが減るはずですから。
コンビニって、商品が売れないと店舗開発担当の責任になるし、逆に売れたら営業部や商品開発、販売担当が褒められる。要するに、店舗開発担当者って報われない職種なんです(苦笑)。彼らを守るためにも、ある程度データに基づいた出店場所をあらかじめ指定して、無駄なアタックを減らしてあげるのは大事だと思います。
とはいえ、僕の現役時代は数で勝負の時代でした。今の5倍以上、年間1000~1500店舗出店していましたから。それだけ大量出店すると、担当者がノルマ達成のためにおかしなことに手を出しかねない。社員にそんな事をさせないためにも一定基準やルールに基づいたデータを提供すべきだと思います。しかも、教育とか評価にフィットさせないと店舗開発担当はやる気が起きません。ここをつなげるのが大事です。
特に中小企業の場合、社長の鶴の一声で出店が決まってしまうケースが少なくないので、定性的、定量的な判断基準をつくるのが大事だと思います。
とはいえ、数字だけでは表せない判断基準のようなものはコンビニにもあります。例えば、市役所前や橋のたもと、お墓が裏にあると売れないとか、逆に消防署の前は売れるとか。企業によって培ってきた経験則があるんです。ただ、数が成長のバロメーターではなくなった今、新しい軸を考えないといけない。だから、今の店舗開発の人は大変だと思います。

坂崎 佳樹
コンビニ業界に約40年勤務後、現在は個人事業者としてベンチャー企業などの顧問、アドバイザー業務に従事。 2024年ザイマックスコモンズプロに参加。
小売業の中でも一番出店数が多いのがコンビニだと思いますが、最盛期の1/5にまで年間出店数が減ってしまったということは、それだけ出店の難易度が上がったということでもありますよね。
坂崎:そうですね。人口減少や店舗の飽和状態、ECビジネスの台頭…いろいろな要因があってリアル店舗に来店する人が減り、良い場所に出しさえすれば売れるとは限らない時代になりました。
何をもって良いお店なのか、良い場所といえるのかが変わってきていますからね。
坂崎:ええ。一方で建築費や食材、人件費などすべてのコストが値上がりし、損益分岐点が上がっている状況ですから、私のいた会社でいえば、現在の店舗数から増やす気はなく、いかに既存店の売上を上げるかにシフトチェンジしています。一方で、年間600-700店舗出す会社さんもあるそうですが。
飲食業も昔に比べると難易度は上がっていますか?
横山:私の在籍していた会社は売上予測を立てる専門のチームが発足しました。類似商圏の店舗のデータと新店舗のそれをすり合わせて予測するのですが、どこまで正しいかは難しい。なぜならば下層階に出すときもあれば上層階で出すときもあり、前提条件が違いすぎて予測が立てづらいんです。
出店要件の見直しが成長のきっかけに
次に、企業がマーケット変化に対応するため、どのようにコスト削減や構造転換に取り組んでいるかお聞きしたいと思います。時代のニーズに取り残されないために、商材や設備などにも変化が求められる今、そうした新しいビジネスモデルの可能性や転換の必要性についてはどうお考えでしょうか?
横山:飲食業は、内装工事や厨房、防水など設備投資のコストが莫大ですから、あらゆるコストにナーバスになっています。飲食店の場合、良い物件に申し込みが殺到して賃料が吊り上がり、一番高い賃料が出せる企業だけが勝ち残る構図ができてしまっています。そこで一階にこだわらず、立地やエレベーターの輸送能力があれば上層階に出すようにシフトチェンジしました。路面店で坪単価10万する物件でも、上層階なら3万くらいで借りられますからね。地方は例外ですが、都心部は上層階出店をすることで賃料を抑えることができています。
以前は路面にこだわっていたのですか?
横山:はい。間口の広さや最低坪数にも制限があった為、物件の選択肢が限られていました。今思えば、東京の店舗が初めてのチャレンジでした。それまでは、どんなに上層階でも3階までと決まっていたのですが、最上階の11階なら賃料が安く、かつ十分な輸送能力のエレベーターもあったので思い切ってチャレンジしてみたら、かなりはねたんです。
挑戦してみないとわからないってことですよね。
横山:それがターニングポイントになって、その後、3階以上の上層階に出店することが増えました。特に広い上層階はテナントが付きにくいから賃料交渉しやすいので狙い目。新宿の店舗は9階にありますが、全国トップクラスの売上をたたき出してくれました。
賃料は抑えつつ繁華街に出店するために上層階に出したら意外に良かったと。
横山:そうですね。私が在籍していた会社の場合、精肉を一本ずつ店舗で串打ちするこだわりがありますから、そのための人件費は削減できないので、家賃の上限が厳しく決まっているんです。
“小さなチャレンジ”が増える小売業
コンビニはオペレーションや輸送コスト削減にかなり苦心されていると思いますがいかがですか。
坂崎:コンビニの場合、昔は多くのお客様が買い物に来やすい場所=一階の路面店を中心に出店していましたが、2000年頃からは逆に、病院やオフィスなど限定した商圏への出店を始めたところ、ものすごく当たりました。このように、飲食や物販など他業種でも新しいマーケットを探る方向に舵を切るのではないでしょうか。ただし、大きな挑戦はしづらいので、“小さなチャレンジ”が増えてくると思います。
実際に、私が在籍したコンビニでは自販機1~2台くらいを置いた小型店舗が増えており、無人店舗も引き続き増えていくと思います。
景気の良い時代は、店づくりで大胆な挑戦ができたんです。例えば、「最近、銀行店舗が減ってきたな」と思えばATMを設置したり、「塾帰りにコンビニ食を食べる子供が増えたな」と思えばイートインスペースを作ったり。今は店舗への大きな投資が難しいですから。
更に、今後は店舗インフラを使ったビジネスが増えてくると思います。例えば、電動スクーターを店頭に設置して場所代で収入を得たり、店内のレジ上にあるデジタルサイネージの出稿料をもらったり。駐車場を活用した車中泊事業を始めた会社もありますよね。おむすびや弁当を売っているだけでは生き残れない時代に突入した証拠だと思います。
今回、取材に応じていただいた企業様
株式会社ザイマックスコモンズプロ
- 設立
- 2024年5月1日
- 本社所在地
- 東京都港区虎ノ門2丁目10番1号 虎ノ門ツインビルディング東棟10階
- 事業内容
- 不動産に関する企画・調査、コンサルティング等