商業事業者へのアンケート・ヒアリングより

ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)は、早稲田大学建築学科石田航星研究室と共同で、多店舗を運営・統括する商業事業者を対象に、2016年より定期的にアンケートおよびヒアリング調査を行っている。昨年は、新型コロナウイルス感染症拡大により事業者を取り巻く環境が大きく変化しているなか、不動産戦略の中核である出店・改装・退店などの店舗戦略に関する方針がコロナ前と比較してどのように変化したのかを定量・定性でとりまとめ公表した(*1)。

新型コロナの影響は長期化しており、現在でも収束にむけた具体的な道筋は明らかではない。一方で、コロナ禍での対応や収束後にむけた店舗戦略の見直しを行っている事業者の声も聞かれる。そこでは2021年6月~8月にかけて、昨年と同様のテーマでアンケートおよびヒアリング調査を実施した。調査対象は小売業・飲食業・娯楽業・サービス業のうち、多店舗を運営・統括する売上高30億円以上(飲食業は5億円以上)の商業事業者7,430社(*2)である。アンケートの有効回答数は357社(回答率4.8%)、ヒアリングは8社に実施した。

本レポートは、売上高30億円以上の事業者(有効回答数:283社)について、店舗戦略の内容とその経年変化、今後の方向性などについてとりまとめたものである。今回の調査結果が今後の有効な店舗戦略策定の一助となれば幸いである。

なお、昨年度調査で店舗戦略に大きな変化がみられた飲食業については、今回、調査対象を売上高5億円以上と広げて調査している。ザイマックス総研が同日に発表した「コロナ禍における店舗戦略に関する実態調査2021(飲食業編)」(*3)にて結果をとりまとめているのでご参照頂きたい。

*1 2020年12月18日公表「コロナ禍における店舗戦略に関する実態調査2020
*2 調査対象:調査概要は末尾参照
*3 2021年10月12日公表「コロナ禍における店舗戦略に関する実態調査2021(飲食業編)

主な調査結果

1. 業種および店舗について:回答事業者の属性・業況

  • 国内店舗数の増減(2019年度末比)を業種・業態別にみると、「非常に減少した」「減少した」の割合は、娯楽業が最も多く、次いでサービス業となった。
  • 既存店舗売上高(2019年度比)では、飲食業・娯楽業・サービス業は大半が「非常に減少した」「減少した」である一方で、小売業(食品)は約半数が「非常に増加した」「増加した」となっており、業種・業態による格差は依然として大きい。

2. 店舗戦略について

  • 出店意欲の程度については昨年度調査と同様に「優良物件に絞って出店」と回答した事業者が最も多い。
  • 重視する出店立地では、コロナ前(2019年)と比較して「駅前・駅周辺」「繁華街・商店街」「駅ビル・駅ナカ」などが減少し、「住宅地」「原則として出店せず」が増加している。
  • 新規出店では、全ての項目で、2020年から2021年にかけて「あてはまる」「ある程度あてはまる」の割合が増加している。特に「労働力確保を重視した出店」を方針とする事業者の増加幅が最も大きい。
  • 不採算店舗では、2019年から2021年にかけて「賃料減額交渉を実施」「退店(自社保有、賃借店舗の中途解約・契約満了問わず)」を方針とする事業者が増えている。
  • 売上高が好調な店舗では、「自営売場を全面(部分)改装」「手狭な店舗は面積拡大(移転・増床・増築)」を方針とする事業者の割合は2019年から2020年はほぼ横ばいであったが、2021年は増加傾向がみられる。
  • 事業戦略に関する項目は、2019年から2021年にかけてほぼ全ての項目で「あてはまる」「ある程度あてはまる」の割合が増加している
  • 新型コロナに起因して実施した施策としては「賃料減額の申し入れ」「国や自治体による事業者に対する各種支援策への申請」が多い。
  • Eコマース売上高比率(2020年度比)は「非常に増加した」「増加した」と回答した事業者が多い。

3. 社会情勢・消費者行動や価値観の変化について

  • 社会情勢の変化が店舗戦略に与える影響については、「新型コロナウイルス感染症の影響の長期化」が昨年度調査と同様に最も高い。
  • 消費者行動や価値観の変化については、「巣ごもり消費の増加傾向が続く」「テレワーク(在宅勤務など)が今後も拡大」が昨年度調査と同様に上位であるが、「そう思う」「ややそう思う」の割合は減少した。

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