概略

ザイマックス総研は、昨今の社会経済における構造変化を背景として、商業施設のトレンドと今後のあり方を整理したレポートを取りまとめた。これは2019年(1)および2021年(2)に公表されたレポートの続編に位置づけられる。

商業施設は社会の公器であり、消費者が利用する場であることから、社会構造や価値観の変化による影響を受けやすい。しかしながら、これらを網羅的に取りまとめたレポートは、わが国にはほとんど存在しない。本レポートでは、重要と考えられる「10のテーマ」を抽出し、それぞれを「メガトレンド」「商業施設のトレンド」「商業施設のあり方」という3つの視点から考察した。

※1 2019年12月24日公表「これからの商業施設を考える
※2 2021年12月22日公表「ポストコロナ時代の商業施設を考える

今後の商業施設のあり方 10大トピックス

今後の不動産・小売りビジネスの前提条件を変えうる重要テーマとして、以下の「10大トピックス」を挙げている。

1.人口減少・少子高齢化
2.物価上昇
3.人手不足
4.テクノロジーの進化
5.働き方・働く場所の変化
6.外国人との共生
7.都市と地方
8.建物の築古化
9.サステナビリティ
10.ウェルビーイング

各トピックスの概要

1. 人口減少・少子高齢化

国内市場の縮小が避けられない中、従来の画一的な郊外ファミリー向け施設から、多様な層に向けた最適化が必要である。高齢者が通いやすい近隣型や、共働き世帯が短時間で用事を済ませられる複合型など、日常生活をワンストップで完結できる生活インフラ機能の強化が求められる。また海外展開やデジタル活用での市場拡大も重要だ。

2. 物価上昇

エネルギーや原材料、人件費の高騰が企業のコストを圧迫する一方、実質賃金の低下で消費者は支出を選別する「メリハリ消費」を強めている。商業施設は、節約志向に応える生活必需品の提供と同時に、消費者がわざわざ足を運びたくなる「納得感」や独自の「体験価値」を創出し、採算性と集客力を両立させる工夫が必要である。

3. 人手不足

少子高齢化を背景に、小売・飲食業や施設運営を担う人材の確保が極めて困難になっている。今後はセルフレジや配膳ロボットなどの省人化・自動化技術の導入が不可欠だ。また、従業員が働きやすい魅力的な労働環境(快適な休憩室の整備など)を提供することで、離職を防ぎ定着率を高めるハード・ソフト両面での対策が急務である。

4. テクノロジーの進化

ECの普及やAI・IoTの進化により、消費者の購買行動はリアルとデジタルが融合するOMOへと移行している。商業施設もアプリやSNSを通じた顧客接点の強化、データ分析によるパーソナライズ化など、デジタル基盤の活用が必須だ。また、施設管理のスマート化など、運営を裏で支えるテクノロジーの導入も進む。

5. 働き方・働く場所の変化

テレワークの定着やハイブリッドワークの普及により、生活圏で過ごす時間が増加している。これに伴い、住宅地周辺の商業施設には、コワーキングスペースやカフェなど「働く場」としてのニーズが拡大している。商業施設とオフィスの境界が曖昧になる中、職住近接エリアにおける利便性向上や多様な働き方を支援する機能が求められる。

6. 外国人との共生

インバウンド観光客の回復に加え、日本国内で暮らす外国人労働者や居住者も増加傾向にある。商業施設は、免税対応や多言語案内などの観光客向けサービスを充実させるとともに、地域の生活者としての外国人住民が日常的に利用しやすく、かつ働きやすい環境を整備していくことが、今後の重要な成長戦略となる。

7. 都市と地方

人口の東京圏への一極集中と地方の過疎化が進む中、地域ごとに商業施設の役割は二極化している。都心部では再開発による体験型・情報発信型の施設が求められる一方、地方や郊外では、行政・医療・金融などの公共的機能を代替する「地域のコミュニティ拠点」としての役割が重みを増しており、各地域の課題に寄り添った施設づくりが必要だ。

8. 建物の築古化

過去に大量供給された商業施設の多くが老朽化の時期を迎えており、修繕・改修のコスト増が課題となっている。安全性の確保や最新の環境基準への適合はもちろん、単なるリニューアルにとどまらず、時代のニーズに合わせた用途変更(コンバージョン)や建て替えなど、中長期的な視点での資産価値維持・向上に向けた戦略的な投資判断が求められる。

9. サステナビリティ

気候変動問題への対応など、企業にESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する姿勢が強く求められている。商業施設においても、再エネ導入や省エネ化による脱炭素への貢献、廃棄物削減やフードロス対策、エシカル消費の推進などが不可欠だ。サステナビリティへの取り組みは、消費者や投資家から選ばれ続けるための必須条件となっている。

10. ウェルビーイング

心身ともに健康で満たされた状態を指す「ウェルビーイング」への関心が高まっている。商業施設は単なるモノを売る場所から、リフレッシュできる緑豊かな空間(バイオフィリックデザイン)や、フィットネス、予防医療、地域住民同士のつながりを生むコミュニティスペースなど、利用者の健康や豊かなライフスタイルを本質的に支援する場への進化が期待される。

レポートの詳細を読む:ザイマックス総研