ここまでは店舗開発やお店の工夫にスポット当ててきましたが、ここからは、商売が難しい中で組織体制や人材教育に対する変化について触れたいと思います。最近になって、ザイマックスコモンズプロに、「店舗開発部の若手にノウハウを教えてやってほしい」という風に社員教育の依頼が増えてきています。お二方も、人材採用・育成や組織の在り方ついて変化を感じることはありますか?

横山:どの業界もコスト削減は大きなテーマだと思いますが、何でもかんでもコスト削減という風潮には疑問を感じます。飲食業であれば飲食業として残さなきゃいけない部分はコストと考えず残すべきじゃないかなと思います。
例えば、私のいた会社は社名に“ホスピタリティ”を冠するくらい創業当時からおもてなしを重視していますから、タッチパネル注文を導入する時にはかなり激しい議論がありました。それほどに「注文はお客様との大事な接点だ」という意識が強かったですね。

横山 昭人

横山 昭人

大学卒業後、一貫してフードサービス業界に従事。店舗開発経験は約 25 年。2024年ザイマックスコモンズプロに参加。

大手ほど店舗数が多いから、その分、人の手配も難しいですよね。

横山:実際、営業部から「アルバイトが集まらないから都心部の出店はやめて」と反対されるくらいですからね。それほどまでに人材採用は永遠のテーマです。物件も昔は30-40坪あればよかったのが50-60坪にまで広げたのは、バックヤードを充実させているからでもあります。従業員が快適に働けるように、更衣室や休憩室など職場環境を改善して働き手から選ばれる努力をしています。

とはいえ、時給は上がり、国内の労働力は減る一方です。

横山:現地コストがとんでもなく上がっており、思うように出店できなくなってきたと感じています。
家賃も上がりつづけて渋谷センター街なんて坪単価15万円とか平気でする物件もありますから。その結果、ラーメンと寿司とガチャガチャばかりになったでしょう。その街ならでの個性や魅力よりも利益重視に走りすぎている街が増えたように思います。

オーナーも、“お店が集まって街が作られている”という感覚が薄れていますよね。

横山:そういうオーナーばかりではありませんが、時代的に難しいのでしょう。

コンビニはいかがですか?

坂崎:僕らは「出せる場所に出しちゃえ!」って感じだったのでかなり出していました。なかには30坪で500万円なんて店もありましたが、そこまで家賃が高いと結局は利益がでない。実際に拡大傾向をやめましたし、家賃の高い都心部は利益がでないので出店基準を厳しくして、競合のいない地方を強化している会社もあります。
お客さんの購買行動も変わってきていますよね。65歳の私ですら電車や飛行機もすべてスマホだし、ネットショッピングが増え実店舗に行くことが減っています。コンビニは店舗のショールーム化が差し迫っていませんが、そうなる可能性は感じています。今、コンビニがECサイトでSwitch 2やウイスキーの山崎を売っているってご存じでしたか?ネットで注文を受けて店で受け取る仕組みですが、実店舗の売上をECが補填する時代になっているんです。
更に、コンビニの場合、物流問題も深刻です。ドライバー不足やトランプ関税など企業単体の力ではどうにもならないけれどもサプライチェーン全体に関わる問題が急増しています。お米だって異常気象でいつ手に入らなくなるかわからない。そんな状態ですから、1~2年もすると新しい商売が出てくるかもしれないと感じます。

坂崎 佳樹

坂崎 佳樹

コンビニ業界に約40年勤務後、現在は個人事業者としてベンチャー企業などの顧問、アドバイザー業務に従事。 2024年ザイマックスコモンズプロに参加。

店舗開発の“顔”が減っている?

横山さんや坂崎さんのように大量出店していた時代の店舗開発担当者が一斉に定年退職を迎える中、若手の育成が不十分なせいで店舗開発者の人材不足に悩む企業も多いようです。今後、店舗開発業務をアウトソーシングする企業は増えると思いますか?

横山:増えると思います。なぜかというと、これからの時代、商況によって出店件数が年度によって大幅に変動する傾向が強いからです。特に飲食業界は、毎月のように交流会をするくらい会社の垣根を超えた横のつながりが強いのですが、最近よく話題にあがるのは「あの企業の店舗開発者は誰がやってるんだろうね」とか「最近(店舗開発)始めた彼のこと知ってる?」という話です。要するに、今までだったらあの会社ならあの人、みたいに企業ごとに店舗開発の看板社員みたいな人が必ずいたのが、最近はなくなってきているんです。

ひとつの企業に定着して成果を出す方が年々減った結果、店舗開発担当者のカラーが薄れていると。

横山:今の情勢的に、「来年は出店がないからごめんなさい」と言われて、解雇される店舗開発担当者も少なくないと聞きます。そうすると年度ごとに担当者が変わるから定着しづらい。自社で店舗開発者を雇用するのが難しいときにコモンズプロにお声がけいただけたらと思いますね。それぞれの企業の出店要件や傾向をヒアリングして、物件を提案できると自負しています。

うまく使ってもらえればいいんじゃないかと。

横山:あとは、「背中を見て覚えろ」的な上司だと部下が育たず、エースが退社した後に残された人たちが困ってしまうような会社もあります。あとは、データに頼らず、勘と経験でやってきた人たちが割と否定されるようになってきて、現場を知らないデータ頼みの頭でっかちの店舗開発担当もいますね。

坂崎:昔は属人的ゆえにノウハウが継承されてない。プライドがあるので。自分の得意技を人に教えたくない。でも、それじゃいけないと。ゼロから物件を開拓するのではなく、20-30年かけて交渉している物件もあるような世界だから、その履歴を引き継いで交渉を続ける方が効率的です。

店舗開発のプロ集団だからこそ提供できる価値

坂崎:いまどき何でもオープンにするのが当たり前の世の中なのに、不動産業ってすごくクローズドな世界で、しかも、その方が高価値で、未公開であるほど喜ばれます。そういう意味では、ザイマックスのデータとコモンズプロの属人的なノウハウを足すと、他の企業にはないノウハウやアプローチを提供できるのではないかと思います。

横山:仲介業者からしても、「情報を公にしなくても、この店舗開発担当者に出せばきちんと出店検討してくれる」という人に情報を出したがります。ただし、そのネットワークを構築するのにとにかく時間が掛かるわけですが。

坂崎:そうなんですよ。退職して5年経ちますが、人脈の重要さをひしひしと感じますね。

社員教育についてはいかがでしょうか?

坂崎:教育はディベロップメントとトレーニング、両方の側面が必要です。コモンズプロが請け負うのはトレーニング。愛社精神やエンゲージメントのようなものは、外の人間は教えられない。それは会社の人が時間をかけて教えるものだと思います。
一方で、必殺技を教えるトレーニングの場面でコモンズプロの出番です。成果主義の現代では、昔のようにゆっくり研修できる余裕がありません。ザイマックスが持つクローズドな情報と、コモンズプロが持つ属人的なノウハウを身に着けることで、結果を早く出せる人材を育成できると思います。

坂崎:コンビニもそう。データ重視といいましたが、世の中にあるデータには必ずタイムラグが生じます。だから結局、店舗開発担当者が目で見て肌で感じないといけない情報がたくさんあるので、そういうものの見方を教えることもできると思います。

横山:町は生き物だから、たった一軒、店がオープンしただけで人の流れが一変することが珍しくありません。そういう言語化しきれないマーケットの見方は共有できたらいいのかなと。

同業他社同士で手を組むことはしませんか?

坂崎:コンビニ業界は、ゆくゆくは大手三社で共同配送とか始めるんじゃないかな。電子マネーだって、ファミペイとポンタとnanaco、三つあるのは不便でしょ。これもいつかは一つにまとまっていくんじゃないかな。

消費者の行動が変わるのにあわせて、これからは店の立地や営業時間ももっと変わる気がします。

坂崎:あとは、今後、個人宅への配送料が値上がりしたり、時間指定できなくなったりすると、実店舗にお客さんが戻ってくる可能性が高くなると思っていて。

そうですよね。送料無料に慣れすぎているけれど、これだけドライバーやトラックが動いているのに、ずっと無料でやっていけるわけがない。再配送の有料化も実現しそうですしね。

坂崎:そうなるとリアルの実店舗に戻ってくる確率が高まるでしょうね。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

今回、取材に応じていただいた企業様

株式会社ザイマックスコモンズプロ

株式会社ザイマックスコモンズプロ

設立
2024年5月1日
本社所在地
東京都港区虎ノ門2丁目10番1号 虎ノ門ツインビルディング東棟10階
事業内容
不動産に関する企画・調査、コンサルティング等